────ガチャ。
安心しきってその中に入ってしまった。
いくつも無数にあるロッカーの中から
翔ちゃんのゴーグルを探す。
それを手に取ろうとした瞬間、
┈┈┈シャーッッ、キュッ。┈┈┈ガッチャン。
明らかに隣に位置するシャワー室から、
そんな音が聞こえてきたのだ。
え、...待って待って待ってッ!?
どんなに鈍感な人でもこの状況に焦るだろう。
実際、私は今、ものすごく焦っている。
一番奥のロッカーに来てしまった為、
どうしても表に出なくてはならなくて。
つまり、表に出るとシャワー室があるわけで...
どうしよどうしよどうしよどうしよッ。
息を止めてこの場を凌ごうかと思ったけど、
私はそこまで馬鹿じゃない。
隠れてもいずれバレるだろう...と。
事故る前に存在を知らせて何とか
しようとしたのだが...
考えてる暇なんてないまま、遭遇してしまったのだ。
しかもそこに居たのは、
一番遭遇したくなかった彼だった。
腹筋が綺麗に割れた上裸に、首には
タオルをかけていて、それで濡れた
髪を拭いている。
あまりにも絶望的すぎて放心状態。
声も何も出ない、沸騰しそうだ。
キョロキョロ周りを見渡して自分が
間違ってないか確認しだす有岡くん。
キミって人は...本当に。
私はすぐ自分の顔を隠して、
全身全霊で謝った。
彼はとても呑気なことを言ってくる。
ゆでダコのように真っ赤になった自分の顔を
懸命に隠してたのに、有岡くんは私の手を
退けて覗き込んできた。
大きな瞳に吸い込まれそうになる。
やっぱり近くで見ても綺麗な顔で髪から
滴る雫がヤンチャな彼のイメージを
一層、色っぽく演出してみせた。
そんな事無責任にもサラッと
言わないでいただきたい...。
お陰で変な声を出してしまった。
心臓の音が有岡くんに聞こえるんじゃないかって
思うくらい、どうにかなっちゃいそうだ。
男の人に対して免疫力が低すぎる私には
とても厳しい壁なのである。
さて、どう乗り越えようか。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!