第5話

5話_鬼ごっこ ⑵
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2021/01/09 18:22
「良かった…やり過ごせたみたい」
ほう、と息を吐く結昂に私は問い詰める。
「全然良くないよ!
どう言う事なの!?」

「…ごめんね、あなた。巻き込んじゃって。
でも…あなたに、知ってもらわないといけない事があるんだ」
知ってもらわないといけない事…?

何それ。
「結昂が言ってくれれば良いじゃん!
何?教えてよ!」

「私の口からは言えない……
だからカレハさんの鬼ごっこにワザと巻き込まれたの。
カレハさんに教えてもらうために。」

「どう言う事?」

「……龍弥のカレハさんの説明に、間違いは無い。
ただ、1つだけ付け足す事がある。
それは、『カレハさんから逃げ切ると何でも1つ知りたい事を教えてくれる』。」
私は無言で結昂の言葉を聞いていた。
「ただ、カレハさんは気まぐれなの。
さっきの声や言動も、幼い子供みたいだったでしょ?
性格もそうみたいなの。
だから、教えてもらえるか分からないけど賭けに出た。
……ごめんね。大親友を、何も言わずに命を賭けた賭けに巻き込んで…
私、最低だよね…でも…」
俯いて、消え入りそうな結昂の声をただ聞いていると、
ガラッと棚の戸が開かれた。
「!?」
「おい…それ、本当か?」

「……龍弥…?」
戸を開けたのは龍弥だった。

走っていたんだろう、
額には汗がにじみ、頬は赤く紅潮していた。

龍弥は出て来い、と手招きする。
「大丈夫、今はカレハさんはいねえよ…」
「『何でも1つ知りたい事を教えてくれる』……
その情報に間違いは無いのか?」

「うん、無いよ」
龍弥の問いかけに、結昂は力強く頷いた。
龍弥はなるほど、とだけ言うと何かブツブツと独り言を言っている。

それはあまり気にせずに、私は、1つ思い浮かんだ疑問をそのまま龍弥に聞いた。
「何で龍弥も鬼ごっこに巻き込まれてるの?」
たしかに…カレハさんは「3人巻き込んだのに」って言ってた。

その3人目が龍弥なんて、思ってもみなかったから……
見知った顔が増えた時には、本当に安心したのだけど。

何故巻き込まれてるのか知りたかった。
ただ、事故で巻き込まれたのか、それとも…
「泗芫くんを探しに来た」

「泗芫を探しに来た」
私の声と龍弥の声が重なる。

やっぱりそうだったんだ…
「……朝はさ、博多に悪い事しちまったから…
やっぱりカレハさんなんていなかったって博多に笑って報告してやろうって思ってたんだよ
カレハさんがもしいても、俺が泗芫を見つけて、無事に連れ帰って博多を安心させてやろうと思って…」
…やっぱり、龍弥は…根は良い人なんだ。

中二病だし、少しクールだけど、
心の底はとても優しい人で、いつも皆の事を考えている。
「で、今私から情報をゲットして、カレハさんに泗芫の居場所を聞こうと思ったわけね」
腕組みしながら結昂が聞くと、
龍弥はこくん、と頷いた。

結昂はため息をつき、しょうがないわね、と言ってぴっと指をさす。
「更に大ヒント。」
と付け足した結昂の指の先には、先程の黒板があった。
「……なんだこれ?」

「そんなもんこっちが聞きたいわ。急にチョークが宙を浮いて書いてったんだもの。」
龍弥ははあ?と言って信じられなさそうに黒板と結昂を交互に見るが、
少しだけため息をついて言った。
「今の所、手がかりはこれくらいしか無いしな…
とりあえず、教室に向かうぞ」
そう言って龍弥は、ドアに手をかけた。
「これからは3人で行動する、
しっかりついて来いよ?
コードネーム『龍の逆鱗』の力を見せつけてやるからな」
私は少し笑って、
結昂はやれやれと肩を落とす。

何だかいつもの中二病が、すごく安心出来たんだ。

龍弥が音楽室を出ると、
私と結昂はそれに続いた。

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