第7話

7話_十大都市伝説
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2021/02/16 09:18
「貴方は何を聞きたい?」
ニコリと可愛らしい笑顔を浮かべて、カレハさんは私に聞いた。

正直言って、私は特に知りたい事なんて無かったからそのまま帰してもらおうと思ってた。
でも、都市伝説を解明しないといけないなら話は別だ。
「じゃあ…有亡中学校の都市伝説について、少しだけ教えて」
カレハさんは元気に「おっけー!」と言って笑うと、
数秒間思い出すように目を閉じ、ゆっくり目を開くと同時に口を開いた。
「まず、アタシは有亡中学校の都市伝説が全部でいくつあるのかは正確には知らない、ゴメンね。
ただ、よく言われてる『七不思議』なんてのよりは多いから覚悟しておいて。」
カレハさんは笑顔を崩していないが、幾らか真剣な空気になっている。
私と結昂、そして龍弥は黙って話を聞いていた。
「後はー…
有亡中学校で特に有名な都市伝説の10個。
『十大都市伝説』って、まああるあるな呼び名がついてるやつね」
面白おかしそうにきゃはは、と笑うカレハさんだったが、私からしたら早く話の続きを聞きたかった。

すぐに笑うのをやめ口元に笑みを浮かべたカレハさんは続ける。
「で、アタシがその十大都市伝説の1つ、
カレハさん…正式名称は『ちびっ子誘拐犯カレハさん』だって。
ちびっ子じゃないのにー!」
いや、ちびっ子とは言い難いが確かに精神はかなり幼いと思う……
そう思ったがまあ、口には出さずにそのまま話を聞こう。
「で、アタシも一応十大都市伝説だから、
他の十大都市伝説の事は知ってる。
だからね、2つだけ、十大都市伝説を教えてあげる!
…ま、名前だけね。後は調べてね〜!
あの2つなら、もしかしたら他の都市伝説の情報。教えてくれるかもよ?」
かも、だけどね〜!
と付け足して笑ったカレハさんに、
結昂は問い詰める。
「その十大都市伝説の2つ、早く教えて」

「そう焦らないでよ〜心配しなくても、アタシちゃんと教えるから!
1つ目は…」
ごくり、と唾を飲む音。
そこまで緊張する事ではないと思うんだけど、
私も何故だか少し緊張していた。
「1つ目は、『天使の死神』。
どっちなんだよってツッコミは無しね!
2つ目は、『人形少年』。
ま、名前で分かりやすいよね!」
言い終わりさて、と息を吐くとカレハさんは言った。
「もう貴方達の聞きたい事は1つずつ教えた、
じゃあ元の世界に帰してあげる。
都市伝説を解明したら、またアタシの所に来てね。待ってるから__」
急に外から風が吹き、教室の閉まりきっていたカーテンが舞う。

気付いた時には、カレハさんは居なくなっていた。
「も、戻って…来た……?」
結昂が呟くと龍弥はすぐに教室を出た。
私と結昂も後に着いて行く。

龍弥が行った先、生徒用玄関前には_
そこには、泗芫くんが立っていた。
龍弥が名前を呼ぶと、笑顔でこちらに手を振る。
「泗芫ーー!!」
龍弥が真っ先に叫んで、勢いのままに泗芫くんに飛びついた。
泗芫くんは勢いに耐え切れず、思い切り押し倒される。
「泗芫っ…良かった!」

「あははっ、心配ありがとな。」

「泗芫くん、おかえり…!」

「うん、ただいまあなた。」
寝転がったまま泗芫を抱きしめる龍弥に、
笑顔で龍弥の背をぽんぽんと叩く泗芫くん。
私がおかえりと言うと泗芫くんは、龍弥の背を叩きながらただいまと返した。

結昂はやれやれと言った様子で
「龍弥、その役目は明日博多にやらせてあげなよ…」
と苦笑していた。
龍弥があ、と言いながら起き上がり泗芫くんから離れる。

泗芫くんも苦笑しながら立ち上がった。
少し、泗芫くんが鬼ごっこでの事を教えてくれた。

黒板に文字を書いたのは、泗芫くんだと言う。
だから泗芫くんに筆跡が似ていたんだ。
「運任せだったけどな」と苦笑した泗芫くんに結昂が問う。
「何で泗芫は私達に見えなかったワケ?」

「た、たしかに…!」

「俺からも、あなた達の事は見えなかったよ。
だけど、音楽室に誰かが居る気がして、これ以上被害を出さない様にと思って書いたんだ。
良かった、ちゃんと伝わってて」
友情が起こす奇跡、みたいなヤツだろうか。
そう思うと何だか、私達の絆が確認できた気がして凄く嬉しかった。
「じゃあ、帰ろっか!」
現在、17時30分。
私達は、皆より大幅に遅い下校を開始した。
「あーあ、帰っちゃった。つまんないの〜」
行儀悪く机に座り、窓からあなた達の下校を眺めるカレハさん。
その隣には、カレハさんより少し背の高い、薄い橙色で短髪の少年が立っていた。
「まあ、良いじゃない。カレハにはまだ沢山友達がいるだろう?」
カレハさんに笑いかける少年は、どこまでも明るい笑顔だったが、
少しだけ不気味なオーラを纏っていた。

そんな事は気にせずにカレハさんは答える。
「そうだけどね、泗芫くんとももっと遊びたかったし、
それに面白そうな子もいたんだもんっ」
ぺろっと小さな舌を出し、舌舐めずりしながら楽しそうに言う。
「都市伝説を本当にぜーんぶ解決しちゃったら、またアタシの所に来る。
楽しみだな〜!」

「カレハ…どっちの味方なんだい?」

「もちろんアタシはこっち側だよ。」
苦笑して聞く少年に、
にこっと笑顔を向けるカレハさん。
「アタシとしては都市伝説を解決されちゃうと少し困っちゃうからね。」

「本当だよ、カレハは何であんな答え方をしたんだ?」
呆れた顔で問う少年に、むっとしたようにほっぺを膨らませるカレハさんは答えた。
「だーって、それしか思い浮かばなかったもん!」

「やれやれ…やっぱりボクが指示しておくべきだったなあ」

「そうだよ!アタシ悪くないもん!」
そんな様な言い合いをしている2人を、月の光が照らしていく。

いつのまにか夕日は落ちて、空には大きな三日月が昇っていた。

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