そしてやっと…
やっと予定日だ。
あなたは日々の痛みと戦って疲れているのか、少し言葉がキツい気がする。
俺はそんなあなたに何も出来ない。
それがすごく悔しかった
そして分娩室に入る前
「旦那さんは入って見守りますか?」
そう言ってあなたはニコッと笑った。
本当はあなたに付き添っていてあげたかった。
けど、あなたがそう言うなら仕方ないよね。
そしてあなたは分娩室に入っていった。
すると同時にあなたのお母さんも到着した。
俺の様子だけでそれが分かるって…すごいな
確かにそうかもしれない。
俺は男だからかもしれないけど、確かにあまり泣いてるところをあなたに見せたくないもんな
弱いところを見せたくない。
もしかしたらあなたも同じなのかもしれない。
中からは時々あなたの声が聞こえる。
すると
おぎゃー、おぎゃー
元気な泣き声が聞こえてきた。
分娩室のドアが開いて、中に案内された。
「元気な男の子ですよ〜」
抱っこした赤ちゃんはとても可愛くて
感動して
涙が出てきた。
あなたの目にも涙が滲んでいた。
これからはこの子と、あなたと、3人家族になるんだ…
俺とあなたはこの子の親になったんだ…
あなたがこの子を抱っこしている所はもう、「お母さん」って顔をしていた。
俺もそんなふうに見えるのかな。
ちゃんとこの子のお父さんになれるのかな。
病室でそれをぼそっと呟いた。
疲れて寝ているあなたのすぐ横で。
俺はそっと病室をあとにした。
家をしっかり片付けて、産まれた子を迎え入れる準備をしなくては
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!