暗く静まり返った部屋の中で
部下である男の声が響く。
声を掛けられたイツキは溜め息を吐き、言葉を放った。
彼の座る椅子がギィと音を立てた。
彼は思う。
マイは優しすぎる、と。
物心がついた時からマイは、
この世界の黒い部分しか見てこなかった。
いや、それしか見せていなかった。
いつも、底抜けに明るいマイ。
彼女のあからさまに沈んだ顔を、
イツキは久しく見ていなかった。
でも___。
気付いていた。
いくら表情を殺していても、
いくら冷たい言葉をぶつけようとも、
1番傷付いているのはマイだ。
どんな言葉も、それはただ演じているだけに過ぎない。
いつ、いかなる時も。
彼女の放った言葉は、
そのまま跳ね返って、マイ自身を傷付ける。
アイツは優しいから。
この世界にマイの「 優しさ 」は危険すぎる。
それはいつか、きっと己の身を滅ぼす
刃になってしまう。
そうならない前に___。
身勝手だよな、と彼は自嘲する。
マイをこの世界に引き入れたのも、
感情を殺してしまう様な、
自分じゃない誰かを演じる様にさせたのも、
全て自分のせいなのだから。
己の自己満足の為だけに、
彼女を利用しただけなのだから。
マイを利用していた事を、
イツキは今まで一度も話したことは無かった。
もう、彼女を解放してやるべきだ。
自分の身勝手な復讐に付き合わせてしまった、__マイを。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。