第10話

⚖️:eight
307
2023/06/09 13:06






 良かったんですか、__イツキさん。 







   暗く静まり返った部屋の中で

   部下である男の声が響く。


   声を掛けられたイツキは溜め息を吐き、言葉を放った。





   彼の座る椅子がギィと音を立てた。











イツキ
 マイは優しすぎる。 
 やはり、この世界には向いていない。 




   彼は思う。

   マイは優しすぎる、と。





   物心がついた時からマイは、

   この世界の黒い部分しか見てこなかった。





   いや、それしか見せていなかった。












   いつも、底抜けに明るいマイ。

   彼女のあからさまに沈んだ顔を、

   イツキは久しく見ていなかった。











   でも___。

   気付いていた。












   いくら表情を殺していても、

   いくら冷たい言葉をぶつけようとも、










   1番傷付いているのはマイだ。

   どんな言葉も、それはただ演じているだけに過ぎない。

   いつ、いかなる時も。











   彼女の放った言葉は、

   そのまま跳ね返って、マイ自身を傷付ける。












   アイツは優しいから。

   この世界にマイの「 優しさ 」は危険すぎる。











   それはいつか、きっと己の身を滅ぼす

   刃になってしまう。

   そうならない前に___。










イツキ
 マイはこの世界から去るべきだ。 





   身勝手だよな、と彼は自嘲する。







 
   マイをこの世界に引き入れたのも、


   感情を殺してしまう様な、

   自分じゃない誰かを演じる様にさせたのも、







   全て自分のせいなのだから。

   己の自己満足の為だけに、

   彼女を利用しただけなのだから。












   マイを利用していた事を、

   イツキは今まで一度も話したことは無かった。












   もう、彼女を解放してやるべきだ。

   自分の身勝手な復讐に付き合わせてしまった、__マイを。











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