「……ッッ」
一人の少年の前で男はそう言う。
男の持つ銃の口からは、煙が立っていた。
少年の名はイツキ。
将来、マイと出会うであろう男だ。
この時のイツキには今のような冷静さはなく、
その瞳からは止めどなく涙が零れ落ちていった。
男はそう言って外へと出て行った。
「お前は男だろ?」
そう言い、イツキの頭を人撫でしてから。
ガチャとドアの閉まる音がして、
部屋にはイツキだけが残される。
自由になったイツキは、
両親の元へすぐさま駆け寄った。
「母さんッ、とお、さん…!」
先程まで親であった物体に走る、
触れた部分の冷たさにゾッ とした。
それから全く、正気は感じられなかった。
死んでる…幼いイツキでも理解するのは容易い事。
以前、両親は小さな酒屋を経営していた。
父が料理を作り、
母がそれを客の元へと運ぶ。
小さい店ながらも、幸せな毎日だった。
でも、それも簡単に倒産し、借金だけが残る。
返済の期限に追われ、助けを求めた所が運の尽き。
やがて、暴力団から命を狙われ、
挙げ句の果てがこれだ。
「這い上がってやる…もう誰にも頼らない。」
惨めに泣いていた少年はもう居ない。
彼は、世に決別した。
親の亡骸を残し、イツキは外へ向かった。
両親を殺したあの男を追って。
逆襲しようとか、
敵討ちとかそんな考えは無かった。
ただ純粋に__。
己の手で、誰かの幸せを壊してやろう、
そう子供ながらに願ってしまっていた。
差し込む朝日はこれからのイツキの
歩む道を照らしているかの様。
否___。
それ程、世の中甘くないと嘲笑している様にも取れる。
イツキは一人ではなくなった。
男の元へ辿り着いた時から。
仲間が出来た。
辿り着いた場所で、男は笑った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!