土色に変色し始めた女に手を合わせ、
マイはその場を後にした。
手を合わせる際には「頂きます」と、
言葉を添えて。
いつも最期にはこれを言うのだ。
最低限の礼だから。
別にこの女に敬意を払うとか、
側からそんな気は無いのだけれど。
それから3日後。
マイは都内の一等地に佇む、
一軒のビルの前で足を止めた。
今日は先日の依頼を「 清算 」する日だからだ。
押したインターフォンから女性の声が聞こえる。
受付なのだろう。
マイは偽名を名乗り、
社長に用があるとだけ伝えた。
その言葉の後、
目の前のドアは音を立てて開いた。
案内板を見ると、
社長室はこのビルの5階にあるとの事だった。
__コンコン
社長室のドアを叩く。
いかにも高そうなドアの奥から、
低めの声がした。
「 入っても構わないよ、
話は受付の者から聞いているからね 」
その言葉を聞き、
マイは社長室へと踏み入れた。
そこには社長を名乗る男と、
二人の女がいた。
露出の高い服を着て、足を男に
組ませるようにして座っている。
見ているだけで気持ち悪くなる。
むせ返るような強い香水の匂いに
耐えながらマイは「 ガイドライン 」
に沿って話し始めた。
そう言ってマイはバッグの中から
冷凍された「 もの 」を取り出した。
それを床に放り投げ、再び問う。
「 ゴトン 」と鈍い音がして女たちが
「 キャアッ 」と悲鳴を次々に上げた。
立ち上がった女に視界を阻まれ、
矢崎は困惑した。
何が起こっているのだろうか、と。
その瞬間、重力に逆らえなくなった
「 商品 」が向きを変えた。
上向きだった首が、
ゆっくりと下へ向き始める。
力が抜けてしまった女たちは座り込んで、
阻まれていた矢崎の視界は急に開ける。
向きを変えた橋本 真波の生首と
目が合った矢崎からは、
先程の笑みなど、とうに消えていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。