……
物心付いた時から、
常にマイの側にはイツキが居た。
親の顔も兄弟の顔も、
声も思い出せない。
思い出そうとしてもボンヤリと
霞掛かった様な、曖昧で掴めない。
否__、そもそも、「 記憶にない 」
覚えているのは目の前に立ちはだかり、
燃え盛る火の手と、どこか遠くで鳴る
救急車のサイレンの音だけで、
一切、マイは家族についての
記憶を持ち合わせていなかった。
生死を彷徨った代償だろうか。
彼女の記憶はスッパリ抜けてしまっていた。
マイの世界には常にイツキが存在し、
イツキがマイの世界の全てだった。
イツキはマイの価値観を変えた。
マイの「 初めて 」を教えた
のは全部イツキで、
それは良くない事でも、良い事でもあり、
マイの人生において、多大な影響を与えた。
この2人の出会いはーー。
今から、10年ほど前に遡る。
場所は都心から離れた山奥。
1台の車が単独事故を起こし、
それが仇となって火事に発展したというもの。
それを傍観する青年と、少女。
青白い肌に、青み掛かる瞳。
まるで、その青年は幽霊の様な風貌をしていた。
少女だけがこの事故で助かった。
少女は__絶望に暮れていた。
車が爆発する直前に自分だけを
逃れさせようとしてくれた、
両親の顔と、兄弟の顔が脳裏にしがみついて
離れなかったから。
そして、その両親も己の目の前で
爆発に巻き込まれて死んでしまった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。