第12話

⚖️:ten
263
2023/06/09 13:27









……











   物心付いた時から、

   常にマイの側にはイツキが居た。






   親の顔も兄弟の顔も、

   声も思い出せない。

   思い出そうとしてもボンヤリと

   霞掛かった様な、曖昧で掴めない。











   否__、そもそも、「 記憶にない 」











   覚えているのは目の前に立ちはだかり、

   燃え盛る火の手と、どこか遠くで鳴る

   救急車のサイレンの音だけで、







   一切、マイは家族についての

   記憶を持ち合わせていなかった。











   生死を彷徨った代償だろうか。

   彼女の記憶はスッパリ抜けてしまっていた。









   マイの世界には常にイツキが存在し、

   イツキがマイの世界の全てだった。








   イツキはマイの価値観を変えた。












   マイの「 初めて 」を教えた

   のは全部イツキで、

   それは良くない事でも、良い事でもあり、










   マイの人生において、多大な影響を与えた。













   この2人の出会いはーー。















   今から、10年ほど前に遡る。









   場所は都心から離れた山奥。

   1台の車が単独事故を起こし、

   それが仇となって火事に発展したというもの。











   それを傍観する青年と、少女。








   青白い肌に、青み掛かる瞳。

   まるで、その青年は幽霊の様な風貌をしていた。











   少女だけがこの事故で助かった。

   少女は__絶望に暮れていた。











   車が爆発する直前に自分だけを

   逃れさせようとしてくれた、

   両親の顔と、兄弟の顔が脳裏にしがみついて


   離れなかったから。











   そして、その両親も己の目の前で

   爆発に巻き込まれて死んでしまった。









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