今度はなんだと目を向ければ、はにかむ笑顔の佐藤さんがこっちを見ている。
手を合わせてそう言われた。
でも別に、感謝されたくて教えてやったわけじゃない。お礼を言われる筋合いもない。さっきのはあくまで、単なる同情心からの行動だ。
僕は目をそらし、そっけなく答えた。
ただ、こういう時の佐藤さんはしつこい。
本当にしつこい。
あんまり気にされても困るんだけどな。あくまで授業の妨害をされると迷惑だから助けたまでだ。出来の悪いクラスメイトが隣の席だと苦労する。
僕にお礼を言うくらいなら、日頃から予習復習をきちんとやって欲しい。
授業でいつ当てられても答えられるようにしてくれた方が、僕にとってはよっぽどありがたいのに――。
突然、先生が僕の名前を呼んだ。
僕は慌てて立ち上がったけど、『次』ってどこだ?
教科書を持ち上げて覗き込む。だけど前に当てられた奴がどこまで読んだか、わからない。しつこい佐藤さんをあしらうのに必死で、授業を全然聞いてなかったからだ。
再び教室がざわめき始め、クラスのみんなが僕の方を振り返る。珍しそうにしてる奴もいれば、面白がってにやにやしてる奴もいる。
僕も授業で当てられてまごつくなんて初めての経験で、いつも佐藤さんはこんな思いをしてるのかと実感した。これは確かに嫌なもんだ、顔が赤くなりそうだ。
それもこれも全て佐藤さんのせいだけど。
先生の厳しい目が僕に向けられる。
答えに窮した僕は、思わず左隣に救いを求めた。
なのに佐藤さんはと言えば、再び僕に両手を合わせる。
佐藤さんが隣の席だと、本当にろくなことがない。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。