第6話

隣のあの子と授業中-2
2,007
2022/04/13 09:00
 今度はなんだと目を向ければ、はにかむ笑顔の佐藤さんがこっちを見ている。
佐藤みゆき
佐藤みゆき
さっきはありがと
 手を合わせてそう言われた。

 でも別に、感謝されたくて教えてやったわけじゃない。お礼を言われる筋合いもない。さっきのはあくまで、単なる同情心からの行動だ。
山口
山口
大したことじゃないよ
 僕は目をそらし、そっけなく答えた。

 ただ、こういう時の佐藤さんはしつこい。
佐藤みゆき
佐藤みゆき
ううん、すっごく助かっちゃった
山口
山口
いや、別に……
佐藤みゆき
佐藤みゆき
今度、お礼するからね
山口
山口
いいってば
 本当にしつこい。

 あんまり気にされても困るんだけどな。あくまで授業の妨害をされると迷惑だから助けたまでだ。出来の悪いクラスメイトが隣の席だと苦労する。

 僕にお礼を言うくらいなら、日頃から予習復習をきちんとやって欲しい。

 授業でいつ当てられても答えられるようにしてくれた方が、僕にとってはよっぽどありがたいのに――。
英語の先生
――じゃあ次、山口くん読んで
山口
山口
え?
 突然、先生が僕の名前を呼んだ。

 僕は慌てて立ち上がったけど、『次』ってどこだ?

 教科書を持ち上げて覗き込む。だけど前に当てられた奴がどこまで読んだか、わからない。しつこい佐藤さんをあしらうのに必死で、授業を全然聞いてなかったからだ。

 再び教室がざわめき始め、クラスのみんなが僕の方を振り返る。珍しそうにしてる奴もいれば、面白がってにやにやしてる奴もいる。

 僕も授業で当てられてまごつくなんて初めての経験で、いつも佐藤さんはこんな思いをしてるのかと実感した。これは確かに嫌なもんだ、顔が赤くなりそうだ。

 それもこれも全て佐藤さんのせいだけど。
英語の先生
どうしたんですか、山口くん。聞いてなかったんですか?
 先生の厳しい目が僕に向けられる。

 答えに窮した僕は、思わず左隣に救いを求めた。

 なのに佐藤さんはと言えば、再び僕に両手を合わせる。
佐藤みゆき
佐藤みゆき
……ごめん。私も聞いてなかったの
 佐藤さんが隣の席だと、本当にろくなことがない。

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