たちまち佐藤さんが目を見開く。
実際、佐藤さんにはこの上なく似合ってる。
センスがいいとは思わないけど、子供っぽくてかわいいと言えばかわいい。そういうことにしておこう。
聞き返されたので僕はやむをえず頷いた。
すると佐藤さんは一転、恥ずかしそうにはにかんだ。
お礼を言われるようなことじゃない。
僕がそう言おうとする前に、佐藤さんが頬をほんのり染める。
うっすら赤らんだ微笑みは湯上がりの顔を連想させた。
喜んで照れるその表情を、学校では見たことがなかった。
学校以外の場所で佐藤さんと会うのは、そういえばこれが初めてだ。
彼女のことを褒めたのも、もしかすると初めてだったかもしれない。
いつだって褒めどころが見当たらない子だったし、単に隣の席のクラスメイトというだけの僕にそんな義務もないはずだ。
だけど僕は、なんだか無性にさっきの発言を悔やみたくなった。
佐藤さんは素直だ。
きっと誰に褒められても喜ぶんだろうし、たとえ嘘つきのお世辞だって全く見抜けずにうれしいと言うんだろう。僕があからさまに服しか褒めてなくたって。
でも嘘だ。彼女の着てる服は別にかわいくない。
服は、かわいくなんかない。
ふいに佐藤さんが声を上げた。
雑誌コーナーが背にしている一枚ガラスの向こうで、同じC組の斉木さんがこちらに手を振っている。待ち合わせの相手なのか、僕がいることには驚いたようだけど、何やら楽しそうに笑っていた。
斉木さんは冬らしいチェスターコートの下に、白いセーターとツイードのミニスカートという格好だった。制服姿とは違う大人っぽさがあって、そうそう、こういうのだよと思う。佐藤さんとは大違いだ。
そう言うと、佐藤さんはコンビニの出入り口までかけていく。
同じように斉木さんも出入り口の方へ移動を始めたけど、僕の目はどうしてか、野暮ったい後ろ姿を追いかけていた。佐藤さんが自動ドアまで辿り着くのを黙って見守っていた。
ふたりは自動ドアが開いた拍子に挨拶をして、
ころころと笑い合い、それからこちらに手を振ってくる。
斉木さんが人懐っこく叫ぶ横で、佐藤さんもにこにこしている。僕も手を振り返したものの、ふたりが店を出ていった後でため息をついた。
そして映画雑誌を手にしていたのを今頃になって思い出す。
どうせ買わないし興味もないから、棚に戻して知らないふりをする。これから同窓会だっていうのに、なぜかしらけた気分でいっぱいだった。
考えてみたら、佐藤さんとコンビニは少し似ている。
一日のうちでわずかな時間だけ、何かのついでに彼女と話す。自然と彼女のことを考えては無意味な時間を潰す。変な習慣だと思うけど、しないでいると、離れると、妙に物足りないような気がしてくる。
明日から始まる一週間で、僕はどのくらい佐藤さんのことを考えるだろう。
つまらない習慣に戸惑いつつ、どのくらい心にもないことを言わされるだろう。
そうしてこの日曜日も、よくわからない後悔を残して潰れていく。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。