第7話

隣のあの子と携帯電話-1
1,868
2022/04/20 09:00
佐藤みゆき
佐藤みゆき
山口くんって、文字打つの速いんだね
 隣の席から驚いたような声が聞こえてきた。

 僕は携帯電話をいじるのをやめ、画面から左隣に視線を移す。

 目が合って、隣の席の佐藤さんがはっとする。
佐藤みゆき
佐藤みゆき
あ、ごめん。お邪魔しちゃった?
山口
山口
いや、別に
 首をすくめて僕は応じた。

 ちょうど打ち終わったところだ。送信しながら佐藤さんに告げる。
山口
山口
そんなに速い方じゃないよ。僕より速い子だってたくさんいる
 携帯電話はコミュニケーションの道具だ。返信は速ければ速い方がいいに決まっている。

 短い文章を送り合ってリアルタイムでやり取りするから、ちょっとでも反応が遅れると不安がったり怒ったり、文句を言ってくる奴までいる。既読がついてるのに返事もないとかで揉めるのはうっとうしいから、僕は読んだらすぐ返すことにしていた。

 今は、同じクラスの湯川さんとやり取りをしている。彼女とは中学が同じで、今度の日曜にプチ同窓会をやろうと言われていた。それで僕と彼女が幹事みたいなポジションになって、店を押さえたり出欠を取ったりしている。
湯川
『山口の見つけた店、雰囲気いいけどフリードリンクじゃなくない? 他の候補欲しいな~。もうちょい調べてくれると助かる!』
 たった今送られてきたメッセージがこれだ。

 湯川さんはなかなか人使いが荒い。だけどメッセージの後に添えられた、片目をつむるうさぎのスタンプを見たら憎めないから困る。女の子ってこういうところがずるい。

 僕も
山口
山口
『わかったよ、できるだけ候補出すから待ってて』
と送る。

 スタンプも添えて返信終了。
佐藤みゆき
佐藤みゆき
十分速いと思うけどなあ
 傍で見ていた佐藤さんが首を傾げる。
佐藤みゆき
佐藤みゆき
少なくとも私よりはずうっと速いよ。私なんて休み時間の間じゃ足りなくて、いつも家に帰ってからまとめて返信してるもの
山口
山口
そうなんだ
 当たり障りなく答えつつ、内心ではいかにも佐藤さんらしいと思っていた。

 彼女はそういう子だ。

 何に関しても動作が遅くて、不器用な上に要領も悪い。きっと一文を捻り出すだけでも恐ろしく時間を掛けることだろう。

 そこまで考えてから、僕は今更みたいに驚く。
山口
山口
佐藤さん、携帯持ってるんだ?
 意外な感じがした。今時持ってない高校生の方が珍しいだろうけど、佐藤さんに限ってはちゃんと使いこなせてるのかという疑問の方が先立つ。説明書は読めたんだろうか、半分も読んでいないに違いない。
佐藤みゆき
佐藤みゆき
うん、持ってるよ
 僕の驚きをよそに、佐藤さんは制服のポケットから携帯電話を取り出してみせる。

 確かに本物だった。本体カラーは薄いピンクで、同系色のビーズのストラップがぶら下がっている。
佐藤みゆき
佐藤みゆき
普段は電源切ってるし、学校では読んでる暇もないから、ポケットに入れっ放しだけど
山口
山口
へえ……
 あの佐藤さんが文明の利器を。

 正直、両手の指でもたもた文章を打っている様子しかイメージできない。
佐藤みゆき
佐藤みゆき
だから山口くんが片手ですらすら打ってるの見て、すごいなって思ったの
 佐藤さんはにこにこしながら言葉を続けた。
佐藤みゆき
佐藤みゆき
いいね。きっと、山口くんからお返事もらう人は喜ぶよね

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