第9話

隣のあの子と日曜日-1
1,433
2022/05/04 09:00
 店内のBGMが切り替わったタイミングで、僕は読んでいた情報誌を棚に戻す。

 日曜日の午後、これから例のプチ同窓会で中学の頃の友達と会う予定だった。みんなで集まるのは久し振りだし、絶対に楽しくなるとわかっている。だけど待ち合わせまでの空き時間、ひとりで歩いていたらなんとなく物足りなく感じて、家の近所のコンビニに寄り道した。

 実を言うとここ最近、出かけたついでにコンビニに寄るのが習慣になっている。市内の至るところに建つコンビニに面白いことは特にない。せいぜい立ち読みをしてガムを買って、意味もなく時間を潰すだけだ。なのに外出の度に足を運んでしまう。

 悪い癖がついたもんだなと思いながら、まだ雑誌の棚を眺めている。

 ちょうどその時、視界の隅で自動ドアが開いた。
佐藤みゆき
佐藤みゆき
……あ
 入ってきた女の子が小さく声を上げる。

 僕も彼女に気付いた。

 どうしてここでも会うんだろう。彼女の家は東高校の近くって聞いてたのに――とっさにそらしたから目は合わなかったはずだ。このまま知らないふりを決め込もう。

 なのにスニーカーの足音が近づいてくる。

 僕は慌てて手近にあった映画雑誌を手に取り、興味もない新作情報に目を走らせた。

 足音はすぐ隣で止まり、僕の努力も空しく聞き覚えのある声がした。
佐藤みゆき
佐藤みゆき
あの……もしかして、山口くん?
 名前を呼ばれたら無視もできない。

 僕は顔を上げ、見慣れた顔にしぶしぶ応えた。
山口
山口
……佐藤さん
 隣の席の、佐藤さんだ。

 彼女は作業着みたいな生地の、薄いベージュのワンピースを着ていた。髪はいつもと同じ色気のないひとつ結びで、足元は飾り気のないスニーカーだ。制服だってそうだけど、私服も全然かわいくない。

 クラスの女子と校外で会ったら、私服の新鮮さにちょっとどきっとするもんだけどな。なのに佐藤さんだとそういうこともなく、ただただ気まずいだけだ。
佐藤みゆき
佐藤みゆき
やっぱり山口くんだった
 僕の内心をよそに、佐藤さんは顔をほころばせる。
佐藤みゆき
佐藤みゆき
学校以外で会うなんて偶然だね
山口
山口
そうだね
 僕は雑誌を閉じ、曖昧に笑い返した。

 偶然の出会いを喜んでるとは思われたくない。喜んでもないし。

 それに佐藤さんなら、クラスの誰と会ったって喜ぶに決まってる。
佐藤みゆき
佐藤みゆき
山口くんのおうちってこの辺なの?
山口
山口
歩いて十五分くらい
佐藤みゆき
佐藤みゆき
そうなんだ、知らなかったな
 佐藤さんはやっぱりうれしそうに笑っていた。
佐藤みゆき
佐藤みゆき
私は友達と待ち合わせなんだ。ここまでバスで来たの
山口
山口
へえ
佐藤みゆき
佐藤みゆき
でもその子、まだ来てなくて。よかった、山口くんと会えて
 何がよかったんだろう。佐藤さんでもひとりぼっちで待ちぼうけるのは寂しいって思うのか。それはちょっと意外だ。ひとりでぼんやりしてても平気な子だと思ってた。

 僕が反応に困っていれば、彼女は隣に立ってこちらをしげしげと見た。
佐藤みゆき
佐藤みゆき
山口くん、私服だと雰囲気違うね
 驚いたように言われて、僕はますます居心地悪くなる。
山口
山口
そうかな。普通だよ
佐藤みゆき
佐藤みゆき
ううん、すごく大人っぽいよ。年上の人みたい。最初見た時、あれって思ったもん
 佐藤さんは両手を合わせて僕を褒めそやす。
佐藤みゆき
佐藤みゆき
山口くんって服のセンスいいんだね
山口
山口
そうでもないって
 褒めてくれとは頼んでないのに、しつこい。佐藤さんは『褒めてあげれば誰でも喜ぶ』などと思い込んでいるんだろうか。

 あいにくだけど、地味で野暮ったい佐藤さんに褒められたところでうれしくはない。

 着ているワンピースは薄くぼやけたベージュ色で、裾が広がらずにすとんと落ちるそっけないデザインだ。膝が出る丈だと彼女の場合、中学生みたいに見える。髪型はいつもと全く同じだし、褒めどころがまるでない。

 でもこっちが服装についてまるっきりスルーってわけにもいかないだろう。
山口
山口
そういう佐藤さんだって
 結局、僕は褒めどころを見つけられなかった。

 だから心にもないことを口にする。

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