自然と口ずさむこの詠唱
桜樺も使っていたのかもしれない
御札が、ぼんやりと青い光を帯び始める
それは広がりを見せ、やがて私を優しく包み込んだ
雫砺さんの言葉を、頭の中で復唱する
淡い光は、鋭く青い光に変化する
体が燃えるように熱くなる
視界の端に見える髪は、黒から青になっていた
それを確認し、御札を口に咥え、刀を構える
呼吸はもちろん、"妖ノ呼吸"しか使えない
だから、これで勝負する
全集中の妖の呼吸を繰り出し
日ノ舞の動きを斬撃に加えてみる
刀を振るうと、火傷のような切り傷が着く
焼き切れたように、無惨の腕が焼け落ちた
そう言って炭治郎が投げた紙を拾う
これは………愈史郎殿の目?
顔に貼り付けると、相手に認識されないようだ
正直、もう息をするのも苦しい
ふらふらな状態では、足を引っ張る他ない
あの管を集めて私に全部突き刺して固定する
そしてそのまま喰われれば作戦成功
脳内で計画を再確認する
同時に、"ごめんね"と、返事のない謝罪をする
誰に対してか………
五十万歩譲って、あいつは娘に殺されることになるから?
母さんが残した唯一の生きた証を十八年で無くなっちゃうから?
雫砺さんに恩返し出来ないまま死んでしまうから?
無惨の頸を討ち取れないまま、あの子たちに追いついてしまうから?
それとも………
想いを伝えられぬまま逝くことになるから……?
あげてしまえばキリがない
その一言に全てを託す
刀を握り直す
金盞花の飾りを目に焼き付け、息を吸った────
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!