何処かで聞いた言葉だった。
あの時、誰からか言われた言葉と似ている。
何かを察したのが顔に出ていたのか、
キース教官は淡々と喋り始めた。
持ち上げて裏返してみると、
リヴァイさん達が着ていた…「翼」が彫ってあった。
見覚えがあったのって…此処にあったからなのだろうか?
しばらく見つめていると、キース教官は静かに続けた。
このペンダントには…自身の体と引き換えに、
今までの経験や記憶が入っているのだと言う。
確かに…この世界に来て見覚えがあったり、
聞き覚えがあったりする物が幾つかあった。
けど、はっきりと分かった物は無い。
思い出そうとしなければ、分からないのだろうか?
自由の翼…。
考えたとたん、ズキッと頭に痛みが走った。
思わずこめかみを押さえると、
ペンダントが少しだけ光っているのが見えた。
気が付くと、掌に
碧瑠璃色の薔薇が浮き出ていた。
手には痛みは感じないのに、頭痛がする。
だんだんと強くなって行く中で
キース教官を見ると、驚いたように声を掛けてきた。
…
頭痛が少し収まると、
キース教官がコップに水を汲んで机に置いた。
お礼を言って、水を一口飲むと喉に染みていく。
静かに呟くと、浮き出ている場所に包帯を巻いた。
何故巻いているのか分からないが、巻き終わるのを待った。
薔薇の模様が見えなくなると…手を離して、また話始めた。
キース教官は小さく息をつき、
窓から見える星空を見上げながら答えた。
私は手に巻かれた包帯を見た。
蒼い薔薇が由来って…
だから浮き出てきたのが薔薇だったんだろうか。
言葉の意味が理解出来なくて、
硬直しているとキース教官が椅子から立った。
思った事を直接聞いてみた。
(heavenとは、天国)
静かに聞くと、頷きながら問いに答えてくれた。
そのまま、歩き出しながら包帯の予備をくれた。
どうすれば良いのか分からないでいると、兵舎に戻れと言われた。
今まで通りのキース教官に戻っていたので返事をして、食堂を出た。
何故、お父様は黙っていたんだろう。
理由があるなら…話してくれれば良かったのに。
もうこの世には存在しないのだから、質問しても意味がないけれど。
ゆっくりと人の足跡がある、道を歩いていく。
月明かりに照らされている訓練所が何だか、とても綺麗に見えた。
次回に続くё
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。