ビル街を吹き抜ける春風は不安定に心情を乱す。穴が空いたような晴天に、じんわり汗が浮き上がる。
耳にうるさい若者の声は、平日の昼とてあたりに鳴り響いている。
昼の渋谷に警察官が三人。素敵な光景ではなかった。
どう考えても、“捜査”という感じはしなかった。行きたくなかった遠足に付き合わされているような気分だ。
平日の昼というのに、相変わらずの人だ。どちらかと言うとスーツの姿が多いようだが、すました若者も負けず劣らずの多さだ。
大祓がいつになく笑顔で、ぐるりと後ろ側を指した。声も若干高くなったように感じる。
突然の変化に幸彦が冷や汗をたらしたことは言うまでもない。
大祓が元気よく指していたのは、クレープのキッチンカーだった。
こんな時間だが、二、三人の人がクレープを買おうと並んでいる。彼女はおもむろにスーツからスマホを取り出し、SNSアプリを開いたかと思うとそれを男二人の前に見せた。甘くて美味しいだとか、なんだか店が繁盛しそうなことがこれ見よがしとずわっと並べられていた。「ホイップステーション」とかいう名前らしい。
仕事に連れ回され日々を消費してきたためか、ほとんどそういったことに無頓着に生きてきた二人にはクレープという単語しかわからなかった。
現実に引き戻されたかのように、大祓は声に対して反射的に幸彦の指の先を見やった。
シャターの音、車の走行音、喧騒、空気が充満していく。
踵を返し駅へ向かうその姿を追いながら、大祓は初めてそれに出会った時とは正反対の感情を抱えながら、人の移ろうキッチンカーを目の端に留めた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。