時間のせいだろうか。女子高校生と思しき人影が多く見られる。
どことなく怪しくもある三人組には、奇異な目線が集中する。その微かな感情の矢を受け流し、彼らは頭上の防犯カメラを眺めていた。
原宿。幸彦は下世話な臭いがする、と静かに思った。
彼はかねてより気にかけていたことを呟いた。そんな時間にうろついていたような十八歳と十七歳に向けて、そしてそんな時間まで拘束していた署にも向けて何やってんだか、と呆れを隠せなかった。
幸彦は二人の会話の隙間に現代社会の黒を見たような気がした。そういうのは、親が叱って当たり前だろう。それこそ、然るべき人が……。
彼らの十数メートル先では、大型のカメラを持った、同じような服の人々がなにやらしていた。
その輪に囲まれるようにして、テレビのCMでチラリと顔を拝見したことがあるような気がするタレントがいた。
原宿だな、と思った。誰だか忘れてしまったが、その人は求められる握手に対して笑顔で応答している。
こんな喧騒の中、よくもまあコッソリしている犯罪者をめざとく見つけたものだ。
大祓は感心したように頷いて、自分たちが向いている方向の反対を指差してこれまた感心した。というより呆気に取られていた。
庄司もそれに同調する中、幸彦一人が取り残されていた。彼の頭には、それよりも防犯カメラ、現場検証があった。当然だろうが。
監視カメラ識別試験という名前だったか、そういう制度が、この公然リア充撲滅法制定後から導入された。
警察官として採用されたものは、最初の約三ヶ月間程度、職場で働くことと並行してその試験のための研修を受けることとなっている。
内容はと言うと至ってシンプルかつ単純なもので、監視カメラ映像の中から特定の人物を発見し追跡報告すると言う、どちらかというとゲームのような感覚を覚える作業だ。
複数の監視カメラ映像をリアルタイムで警察に送信・解析することで、犯人の追跡や指名手配犯の逮捕に貢献する、という主旨である。
もちろん試験の際に使われる人は人権的な問題(こんなの世の中においては矛盾のように感じるが)から警察職員が担当しているわけだが。
この道に連なる店も同じだ。一日に何百という人が店に並び、店の前を通り過ぎる。よほどのインパクトがない限り覚えている、なんてことは無いが、ここ原宿は“よほどのインパクト”のデパートなわけで、よってすべからくして印象が薄い。
決して遊びにきたわけではないのだが、何も得られなかった点から罪悪感を抱く。
と、同時に、そういえば何か見過ごしがあったんじゃなかろうか、という気持ちも心のどこかで思い出したように湧き出てきた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!