彼女が飛び出していったとき、きっと振られたんだと思った。
口に手を当てて驚いて、そのまま反応がなくって。
料理の感想を聞いても上の空で、レストランを出るまで何も言ってくれなかったから。
いきなり競争だっていいだして、ハイヒールを脱いだ時は驚いた。
けど、状況を飲み込む前に走り出した彼女を見て、あぁ、振られたって。
運動苦手で、足が遅いの知ってるのにって。
断る理由が欲しくて、こんなことするのかって思った。
でも指輪を見せてプロポーズした時、すごく喜んでくれてたみたいだったこと、彼女がテンション上がると子供みたいなことをしたがるのは知ってた。
だから、いつもの気まぐれかもって思いなおして走った。
頂上に行ったら笑ってからかってくるんだろうなって思ってた。
いや、そうであって欲しいなって、思ってた。
そしたら、坂の途中でふてくされてた彼女に殴られた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!