第39話

重なる気持ちの奥に
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2025/11/23 08:00 更新


千空は、すぐには何も言わなかった。
責めるでもなく、呆れるでもなく。


そして、ふっと息を吐き
ゆっくりと手を伸ばしてきた。


私の後頭部に触れた指は
驚くほど優しくて。

そのまま
ぐっと胸に引き寄せられる。



「……別に、思ったことあんならなんでも言え。
わがままとかの前に、言われなきゃ
てめぇの思ってること100%は
こっちもわかってやれねぇ」



こくりと頷き視線を上げると
千空と目が合う。

その視線には、伝えたいことが伝わってるか
たしかめるような温度があった。



「……うん、これからはちゃんと伝える」



そう答えると、千空は
ほんの少しだけ安心したような顔をした。



そして、
彼の指が、私の頬にそっと触れる。


涙の跡を辿るように、
優しく。


絡まったままの視線。
ゆっくりと手のひらで包まれる頬。

伏せられる、長いまつ毛。
近づく距離。



「ん……」



息を呑んだその瞬間
唇が触れた。


柔らかくて、あたたかくて、

まるでさっきまで泣いていたことを
癒やすようなキスだった。


ほんの一瞬離れては、またすぐに重なる。


焦らず、ゆっくりと
感情を確かめ合うみたいに。



けれど、
しばらくして千空がふっと
離れようとするのを感じた。



(もう少し、このまま…)



反射的に、
私は千空の服をきゅっと掴んでいた。


離れないで、の合図みたいに。


千空の指先は一瞬止まってから

そのまま、また私の頬に触れて
もう一度ゆっくりと唇が重なる。


それは少しずつ深くなる。

息が混ざって、
また頭のどこかがぼんやりとするような感覚。


ちょっと息が苦しくなって
ふたり同時にそっと離れたとき。

心臓の音だけが、
やけに大きく聞こえた。



「あのね、私……その……」



喉がつまる。

でも、
言わなきゃと思った。




「……嫌じゃない、よ」



視線を逸らしたまま、
ほとんど聞こえるか聞こえないかの声。


恥ずかしい。
でも、ずっと伝えたかったこと。



「千空は……嫌じゃない?」



自分が思っていた以上に
震えた声だった。


目を合わせるのがこわくて、
でも合わせたくて。


私はそっと、千空を覗き込んだ。


その瞳は熱を帯びていて、
私は何かに捕まったみたいに
動けなくなる。



「……んなもん、」



少しだけ眉を寄せて、
けれど、声はどこまでもまっすぐだった。



「俺は、ずっと前から決まってんだよ」



ずるいよ、そんなの。
私がようやく追いついたみたいに。


でも、それが千空なんだ。
飾らなくて、真剣で、

わかりやすくなんかないくせに
伝える時は全部を伝えてくる。


千空が私の頬に触れて、
また唇が触れ合う。

この空気の答えを探すみたいに、
それは深くなっていく。



「……止めて欲しくなったら、すぐ言えよ」



耳元で落とされたその声は、
低くかすれていて、

それだけで全身の温度が上がる気がした。



「うん……」



頷いてはみたけれど
止めて欲しいなんて、きっと思わない。


千空の指先が、ゆっくりと頬から首筋へ、
なぞるようにさらに下へと滑っていく。



パジャマの裾に触れた手が止まって
私の顔を、もう一度だけ見つめてきた。


何も言わずに頷くと
そのまま肌に触れる温度が変わっていく。



服の感触が遠ざかって、

触れ合う部分がひとつ、
またひとつと増えていく。



「……ッ……」



千空の髪が首筋に触れて、
唇が私を辿るたび
声にならない声が、部屋の中に小さく響いた。


指先が絡まり合って
もうどちらの鼓動かもわからないまま
ふたりの境界線は溶けていく。



そうして全てを揺さぶられながら
重なる気持ちの奥に、

千空への思いが
さらに募っていくのを感じた。




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