第38話

溢れる、想い
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2025/11/21 08:01 更新


*side 千空



あなたの部屋の前に立ち、
インターホンを押す。


「…………」


……出ねぇな。
出かけてんのか? 

そう思ったところで、ふと記憶がよみがえる。


(そういや……鍵、渡されてたな)


前にここへ来た時、
一応とか言いながら
半ば無理やり押しつけられたやつ。

まさか役に立つ日がくるとは思わなかった。


カバンから取り出して鍵を差し込む。

カチャリと、
たしかに開いた音がした。


けれど、



「……あ?」


ドアノブに手をかけるも、動かない。

もう一度、鍵を回してみる。

すると、
今度はすんなりと開いた。


(……ってことは、
あいつ鍵かけ忘れてたってことか)


不用心にもほどがあんだろ……


軽く呆れながらも、
玄関の中に足を踏み入れる。

部屋の中はひどく静かで、
人の気配も感じない。


(……留守か?)


そう思って一歩進もうとした、
そのとき。


寝室の方から、
わずかに何かの気配を感じた。

その正体を確かめるように、
そっと寝室のドアに手をかける。



❁⃘*.゚┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈❁⃘*.゚


*side あなた


結局、今朝になっても熱は下がりきらず
今日は丸ごと休むことにした。


(……朝からずっと寝てたら、
だいぶ楽になったなぁ)


──── ぐぅぅうう……



……お腹すいた。


キッチンでパウチのおかゆを温めて、
そっと両手で抱えて寝室へ戻る。


「いただきまーす」


んー、染みる。
胃に、喉に、心にまで染みる優しさ。


お腹が少しずつ満たされてきたところで、
ふと、我に返る。


(千空、どうしよう)


あの日。

あんな風に飛び出してしまって
連絡もできないままで。

仲直りも、
なんにもできていない。


いや、そもそも
仲直りって言葉が正しいのかも分からないけど、

私の発言で、
空気が変わってしまったのは事実で……


(……時間があけばあくほど、
謝るタイミングって失われていくんだよね)



もう、
呆れられたかな。


面倒なやつだと、
思われてるかもしれない。


考えれば考えるほど、胸が苦しくなって
目頭が熱くなってきた。



戻れたらいいのに、
あの日に。



「千空……」


小さく名前をつぶやいた、
そのとき。



──── ガチャ


寝室のドアが、突然開いた。


「へ……?」


そこに立っていたのは、
ずっと会いたかった人。


「なにやってんだ」


千空の低い声が落ちてきて、
はっと顔を上げる。




「お、おかゆ食べてる……」


反射的に口から出た言葉に、
自分でツッコミたくなった。

たぶん、千空が聞きたいのは
そういう意味じゃない。


「その……ちょっと体調悪くて」

「……いつからだ?」

「昨日から……」


そこから、数秒の静けさ。


言うなら今だ、って思った。
ちゃんと謝らなきゃって、
口を開きかけた時。


千空が無言のままベッドに腰を下ろし、
片手をついて、もう片方の手で
私の額にそっと触れる。



「……熱は?」

「たぶん、下がった……と思う」

「薬は?」

「昨日、病院でもらったの飲んでる」


言葉は少ないのに、
心配してくれてるのが伝わってくる。






「……悪かったな」

「え……?」


一瞬、
時が止まったような気がした。

思わず顔を向けると、
千空はこっちを見ずに、目線を逸らしたままだった。



「……会えねぇの、続いてたからな」



それが精一杯だったんだと思う。

言い訳でもなく、
弁解でもない。


だから私もそれに向き合って
気持ちを伝えなきゃと思った。



「……私ばっかが
会いたいんじゃないかって思って、」


千空の前で口を開いた瞬間、
張りつめていた何かが緩んでしまって
止めどなく思いがあふれてくる。



「忙しいのもわかってるし、
ちゃんと時間作ってくれてるのも
知ってたはずなのに。でも……」



言葉の端が震える。

自分でも、
自分の気持ちの深さに驚くほどだった。



「一緒にいればいるほど、
もっと、こっちを見てほしいって、
思っちゃって……」



千空はただ黙って聞いていた。

視線をそらさず、
私の言葉を受け止めるように。



「……あの日、家を出たときも……
あれ以上言葉を続けたら、
もっと余計なことを言っちゃいそうで
だから自分から出て行った。
……けど……」



気がつくと、頬を涙が伝っていた。



「本当は……追いかけてきてほしかった。
……行かないでって……思っててほしかった……」



ポロポロと止まらない涙に、
唇を噛みしめながら。



「……ごめん、わがままだよね。
ほんとに、ごめん……」



胸の奥がずっと痛かったのに、
それをごまかしてたのが全部ほどけて
私は涙を止められなかった。




❁⃘*.゚ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ❁⃘*.゚


とっても途中ですが
文字数多くなりそうだったので
今日はここまで……!


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