第6話

ー届けよう。ー
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2021/04/01 12:10
いよいよ当日。
休日なのに制服を着ている私たちは会場に着くまで浮いて見えた。


「出番まで、ゆっくりしてよう。俺たちは十組中四番目だ。」

「分かった。」

時間が経つのはあっという間で一人、また一人と待合室を出るにつれ私たちの出番が迫ってくる。



「エントリーナンバー四番。舞台袖に移動してください。」

舞台袖に移動して前の人が終わるのを待つ。


「頑張ろうな、三河。みんなに三河の歌を届けよう。」

「うん。澤藤もみんなにピアノの音色届けてね!」


「ああ、当たり前。」






「エントリーナンバー四番。澤藤岬、三河春歌。」


澤藤に続いてステージ中央に移動する。



あ、里歩。
手を振ってるから、すぐに気がついた。


♪♪~

心地よいピアノの音色が流れ始める。

大丈夫、いつも通りに。


『雨に降られた あの夏
懐かしい 記憶蘇る
母と繋いだ 手のひら
傘に弾ける 雨粒が
美しく 光り輝いた
小さな 温もりさえも
愛おしく 感じるんだ


晴れた空には 虹浮かび
葉に伝う 雫が眩しい
父と繋いだ 手のひら
傘に残る 雨粒が
一本筋 落ちていく
大きな 背中の影さえも
温かく 感じるんだ』




よし、一番上手く歌えた。

このままこの調子で…

そのまま順調に歌い続け、澤藤もミスすることなく無事終えることが出来た。



終わった瞬間、大きな拍手が沸き起こった。



とても嬉しかった。

澤藤のピアノも私の歌も認めてもらえた。
届けることが出来た。



「ありがとう、三河!三河のおかげでこのコンクールに出れたし、上手くいった!」


待合室に戻ると澤藤はいきなり肩を組み、第一声にそう言った。


私も…。
「…私もありがとう!自分にとってのトラウマも乗り越えれたし、歌うことの楽しさにも改めて気付かされた。ってかピアノすごかった!場所も違うせいか今までで一番いい音出てた!」


「三河も今までで一番堂々と歌ってた。最高だったよ。届いてたな。みんなに、観客席に」




「皆さん。ステージ上にご移動お願いします。」


いよいよだ。


ステージ上にみんなが集まり多くの観客の視線を浴びる。


「第四十八回。歌とピアノのデュオコンサート。準優勝、エントリーナンバー六番。佐々木結、本田美香。」

ああ。
緊張してきた…。

「続いて優勝。エントリーナンバー十番。冴島香織、齋藤要。」

呼ばれないかな…。

「続いては、最優秀賞の前に審査員賞。エントリーナンバー二番。大木透。川崎歩。」




「大丈夫。」

澤藤のその小さな一言で緊張が少し解けた。





「最後に最優秀賞の発表です。」









「エントリーナンバー四番。澤藤岬。三河春歌。」





う、嘘。


審査員の人が大きなトロフィーを持って、私たちの前に立った。



「最優秀賞おめでとう!久々に聴き入ってしまったよ。澤藤くん。君の演奏には感情がしっかり入っていた。優しさも感じられた。三河さんは、とにかく透明感が凄かったよ。強弱もしっかり感じられたし堂々としていた。ぜひ、また参加してほしい。」



「はい。ありがとうございます。」
「ありがとうございます。」




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