ピーンポーンパーンポーン ピーンポーンパーンポーン
1日の授業が終わった。
部活、行きたくない…
初めてだった。部活に行きたくないのなんて。
中学のときから、部活が大好きだった。
授業が終わるとすぐ、走って部活に行って、誰よりも先に音出し。
部活をやめたがってる子がいても、その子の気持ちを理解してあげることができなかった。
「なんで!?楽しいじゃん!やめちゃダメだからね!?」
って、自分の気持ちだけ押し付けて。
でも今は、私が、部活に行きたくない。
いつも部活に行きたくて仕方なかった私が、こんな風になっちゃったのは…
健のせいだよ。
いや、違うか…笑
結局、自分の実力がないだけだ。
私たちはいつも通り部活に行った。
部室に行くと、健はもう来ていた。
パチっ
目が合った。
と思ったら、すぐ逸らされた。
ほんとなんなの、あいつ。
合奏かぁ。
健とsoli吹かなきゃだ…
嫌でも部活だし、やらない訳にはいかない。
仕方なくsoliのメロディを辿る。
健も、やりたくないオーラがすごい。
止められてしまった。
私は下を向く。
突然の質問に、私は戸惑った。
なんだろう。
何とも言えないようなこのメロディ。
美しく、儚く、愛おしいこのメロディ。
健の言葉に驚いて、私は健の方を見た。
愛し合う2人…って…
確かに、そう思う。
けど…
私は何も言えなかった。
いつも優しい先生の厳しい言葉。
やる気の無さが伝わっちゃったかな…
私たちは部室を出て、空いている部屋に移動した。
なんかすごく、気まづいな…
健は、呆れた顔をして私に背を向けた。
こいつ、何言ってるの?
何のこと?
健は、そう言って意地悪な笑みを浮かべながら振り返る。
私たちは楽器を構えて、顔を見合わせてから吹き始めた。
一応少し抑揚を付けてみたつもりなんだけど…
想いは込められないや…
健だし…笑
吹き終わってすぐに健が言う。
だってビブラートって、いかにも感情こみこみって感じじゃん!
恥ずかしいでしょ…
え?何?スパルタ!?
一応ビブラートをかけてみた。
え?何?
違う…?
え、今更何言ってるの?
私たち、全国目指してるんじゃないの??
健は何かを企むようにニヤッと口角を動かした。
健、急にどうしちゃったの??
でも、
「俺が連れてってやる。」
た、たまにはいい事言うじゃん?
実は私たち、去年の夏のコンクールは、県大会までしか行けていない。
いきなり全国を目指すなんて、夢みたいな話だって自覚はしてた。
でも、どうしても行きたくて。
1回でもいいからあの舞台に立ちたい。
それが、ずっとずっと夢だった。
だから…
勢いのあまり、顔が近づき過ぎてしまった。
なぜか赤面する健のことなど気にも留めず、私はsoliを練習した。
何回も何回も。
あぁ、この感じ。
そうだ、こうやって夢中になって練習して…
私は中学のとき、本気で部活をやってた時のことを思い出した。
よし!全国に行く!
私たちの吹部は、全国目指して頑張る!!
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。