第3話

全国行く!
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2020/09/07 06:24
ピーンポーンパーンポーン ピーンポーンパーンポーン

1日の授業が終わった。

部活、行きたくない…

初めてだった。部活に行きたくないのなんて。
中学のときから、部活が大好きだった。
授業が終わるとすぐ、走って部活に行って、誰よりも先に音出し。
部活をやめたがってる子がいても、その子の気持ちを理解してあげることができなかった。
「なんで!?楽しいじゃん!やめちゃダメだからね!?」
って、自分の気持ちだけ押し付けて。

でも今は、私が、部活に行きたくない。

いつも部活に行きたくて仕方なかった私が、こんな風になっちゃったのは…

健のせいだよ。

いや、違うか…笑

結局、自分の実力がないだけだ。
川岸 香奈(かわぎし かな)
桜音?
どーした?早く部活行くよ?
内田 桜音(うちだ おと)
あ、うん…
川岸 香奈(かわぎし かな)
soliのこと?
健となんかあった?
内田 桜音(うちだ おと)
んー、いや!
何でもない!
川岸 香奈(かわぎし かな)
そ?
私たちはいつも通り部活に行った。

部室に行くと、健はもう来ていた。

パチっ

目が合った。

と思ったら、すぐ逸らされた。

ほんとなんなの、あいつ。
櫻井 夢歌(さくらい ゆめか)
今日の部活は、1年生は個人で譜読み、2、3年生は先生の指揮で合奏練習です。
合奏かぁ。
健とsoli吹かなきゃだ…

嫌でも部活だし、やらない訳にはいかない。
まみ先生
桜音、チューニングは済んでるかな?
内田 桜音(うちだ おと)
はい!
もう終わってます!
まみ先生
了解、ありがとう!
まみ先生
じゃあ、今日は自由曲中心でやるよ~!
いきまーす!
仕方なくsoliのメロディを辿る。

健も、やりたくないオーラがすごい。
まみ先生
はい、ちょっとストップ。
止められてしまった。

私は下を向く。
内田 桜音(うちだ おと)
すみません…
まみ先生
うん、これさ、どういうメロディだと思って吹いてる?
突然の質問に、私は戸惑った。

なんだろう。

何とも言えないようなこのメロディ。
美しく、儚く、愛おしいこのメロディ。
内田 桜音(うちだ おと)
えっと、これは_
鍵谷 健(かぎたに けん)
愛し合う2人の掛け合い…
内田 桜音(うちだ おと)
え?
健の言葉に驚いて、私は健の方を見た。

愛し合う2人…って…

確かに、そう思う。

けど…
まみ先生
その通り!
きっとそうだと思うんだよね。
内田 桜音(うちだ おと)
は、はい…
まみ先生
悪いけど、今の2人の演奏だと、全然それが伝わって来ない。
鍵谷 健(かぎたに けん)
すみません。
練習しときます。
私は何も言えなかった。

いつも優しい先生の厳しい言葉。

やる気の無さが伝わっちゃったかな…
まみ先生
みんな合奏やるけど、2人は外でsoliのとこ練習してきて?
鍵谷 健(かぎたに けん)
はい。
内田 桜音(うちだ おと)
分かりました。
私たちは部室を出て、空いている部屋に移動した。

なんかすごく、気まづいな…
内田 桜音(うちだ おと)
あ、あのさ、なんかごめんね?
鍵谷 健(かぎたに けん)
何が?
内田 桜音(うちだ おと)
私のせいだよね。
私なんか、soli吹く権利ないよ。
鍵谷 健(かぎたに けん)
お前さ、いつもやる前に諦めてんじゃねーよ。
内田 桜音(うちだ おと)
だって、昨日健だって言ってたじゃん。
ゆかちゃんの方がいいって。
健は、呆れた顔をして私に背を向けた。
鍵谷 健(かぎたに けん)
まともに受けとってんじゃねーよ
内田 桜音(うちだ おと)
は?
こいつ、何言ってるの?
何のこと?
鍵谷 健(かぎたに けん)
ゆかちゃん、確かにビブラートとかかかってて表現力は豊かだけど、音色は負けてねーだろ。
内田 桜音(うちだ おと)
えっ
鍵谷 健(かぎたに けん)
って言っても、後輩だしな。
負けてたら困るわ。
健は、そう言って意地悪な笑みを浮かべながら振り返る。
内田 桜音(うちだ おと)
何よ!
そーですねー!
褒めたと思わせといて、結局褒めてないじゃん。
鍵谷 健(かぎたに けん)
褒めるかよ。
ばーか。笑
内田 桜音(うちだ おと)
ねぇ!
練習するよ!?
怒られちゃう!!
鍵谷 健(かぎたに けん)
だな。
私たちは楽器を構えて、顔を見合わせてから吹き始めた。

一応少し抑揚を付けてみたつもりなんだけど…

想いは込められないや…
健だし…笑
鍵谷 健(かぎたに けん)
ダメだな。
吹き終わってすぐに健が言う。
内田 桜音(うちだ おと)
そうだね…
鍵谷 健(かぎたに けん)
お前、ビブラートかけれねーの?
内田 桜音(うちだ おと)
は?
かけれますけど!?
鍵谷 健(かぎたに けん)
じゃ、何でかけねーんだよ。
かけろよ。
内田 桜音(うちだ おと)
だって…
だってビブラートって、いかにも感情こみこみって感じじゃん!
恥ずかしいでしょ…
鍵谷 健(かぎたに けん)
だってじゃねーよ。
俺だってかけてるし。
内田 桜音(うちだ おと)
はいはい!
分かったよ、、
鍵谷 健(かぎたに けん)
もー1回!!
内田 桜音(うちだ おと)
は、はい!
え?何?スパルタ!?
一応ビブラートをかけてみた。
鍵谷 健(かぎたに けん)
ま、さっきよりはいいな。
ってか、
内田 桜音(うちだ おと)
ん?
鍵谷 健(かぎたに けん)
お前、全国行きたいとか言ってたよな?
だったら、恥ずかしがってる場合じゃねーだろ。
内田 桜音(うちだ おと)
はぁ!?
健だって、気のないような音で吹いてんじゃん!!
鍵谷 健(かぎたに けん)
いや、俺は特に全国とか目指してねーし。
内田 桜音(うちだ おと)
何言ってんの!?
みんなで行くんじゃん!!
そういう目標で練習してるんじゃなかったの!?
鍵谷 健(かぎたに けん)
え?
内田 桜音(うちだ おと)
え?
え?何?

違う…?
鍵谷 健(かぎたに けん)
全体で、そういう目標になったんだっけ?
内田 桜音(うちだ おと)
いや、そういう訳じゃないけど…
鍵谷 健(かぎたに けん)
みんな、全国とか考えてないんじゃね?
内田 桜音(うちだ おと)
え…
え、今更何言ってるの?
私たち、全国目指してるんじゃないの??
鍵谷 健(かぎたに けん)
俺はただ、アルトが吹きたいだけでやってるし。
内田 桜音(うちだ おと)
え?
私、全国行きたい…
鍵谷 健(かぎたに けん)
え?何て言った?
声小さくて聞こえんかった。
内田 桜音(うちだ おと)
だから!
私は、全国に行きたいっ!!
健は何かを企むようにニヤッと口角を動かした。
鍵谷 健(かぎたに けん)
だったら、俺が連れてってやる。
お前1人が行きたいって言ってても無駄だ。
内田 桜音(うちだ おと)
な、何?
偉そうに言っちゃって!
健、急にどうしちゃったの??

でも、

「俺が連れてってやる。」

た、たまにはいい事言うじゃん?
実は私たち、去年の夏のコンクールは、県大会までしか行けていない。
いきなり全国を目指すなんて、夢みたいな話だって自覚はしてた。
でも、どうしても行きたくて。

1回でもいいからあの舞台に立ちたい。

それが、ずっとずっと夢だった。

だから…
内田 桜音(うちだ おと)
行こうよ!
全国!一緒に目指そ!?
鍵谷 健(かぎたに けん)
し、仕方ねぇ。
手伝ってやるよ。
勢いのあまり、顔が近づき過ぎてしまった。

なぜか赤面する健のことなど気にも留めず、私はsoliを練習した。
何回も何回も。

あぁ、この感じ。

そうだ、こうやって夢中になって練習して…

私は中学のとき、本気で部活をやってた時のことを思い出した。

よし!全国に行く!

私たちの吹部は、全国目指して頑張る!!
鍵谷 健(かぎたに けん)
乗りやすいやつ。笑
内田 桜音(うちだ おと)
なんか言った?
鍵谷 健(かぎたに けん)
なんもー。

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