今は4月。
吹部では、新入部員を20人迎え、新たに活動を始めたところだ。
2ヵ月前、アンサンブルコンテストが終わり、部員たちは先生から自由曲を紹介された。
いつも元気いっぱいで明るいまみ先生は、みんなの人気者。
みんなが馴れ馴れしい態度になっちゃうのも仕方ないのかな。
健は、いつも冷たい。
そんな言い方しなくてもいいのに、って思う。
先生が指揮棒を上げて、私たちは楽器を構えた。
うん、なんか楽しそうじゃん、この曲。
大きく息を吸い込むと、私はメロディを奏でた。
最初からsoloかぁ。
いいじゃんこのメロディ♪
ん?アルト…?
アルトサックスのsoloがメロディに加わってきた。
しかも、私が苦手な健。
いつも冷たくて、毒舌な健。
せっかくのsoloなのに…
嘘でしょ、、
そっか、ここはフルートとアルトの掛け合いになってるんだ。
曲自体はいいけど…
健とsoliとか…
あ、やば。
いろいろ考えてたから、♭落としちゃった。
気になって健の方を見たら、こっちを睨んでいる。
はぁ、ごめんなさい…
最後までなんとか通って、先生が指揮棒を下ろす。
やっぱり、曲の感じは私もすごく好きなんだけどね…
健とsoliとかキツすぎだよ。
やだやだやだやだ~~
うわ~、ほんとにムカつく!!
なんなの!?
私が先生に質問しようとしたのに!
さすが先生!
健とは違って優しい~!
あ、私、何自分勝手なこと言ってるんだろ。
健は嫌だけどsoliはやりたいとか、わがままだよね…
あーーもー最悪!!
自覚したもん!
なんなの?分かってるもん!
はぁ…
私は心の中で大きくため息をついた。
その日の練習が終わり、私は香奈に横から話しかけられた。
私たちは、高校で吹部に入って、同じフルートパートになってから仲良くなった。
クラスも同じだから、行動するときはだいたいいつも一緒。
自由曲が決まり、私たちは、それより前から練習していた課題曲に加えて、自由曲の練習も本格的に始めた。
新入部員も迎えて、コンクールに対する意気込みは充分なくらいだけど、健とのsoliはまだ、2人での練習ができていない。
そろそろ、練習しなきゃ…。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!