第5話

好きになれない
66
2021/12/31 11:21
放課後。

夕日でオレンジ色に染まった校舎内をスキップで進み、部活の鞄を肩にかけ直してから入口の横に2ー2と表記された教室に入る。
私
紀乃さーん。かーえーろ····って、あれ?ホッシーくんもいるの?
誰もいない教室の窓側の席に、紀乃と星谷だけが向かい合って座っていた。

机の上には参考書やらノートやらが広げられているので、どうやら宿題を一緒にやっていたらしい。
星谷 京
星谷 京
え?ホ、ホッシーくん····?
縞原 紀乃
縞原 紀乃
波木はやすぎない?部活は?あと星谷は気にしちゃ負け。これが波木の通常運転
星谷 京
星谷 京
へ、変人だぁ····
縞原 紀乃
縞原 紀乃
周知の事実でしょ
私
失礼すぎない?
縞原 紀乃
縞原 紀乃
で、波木。部活は?
私
無視かぁ
私はにへらと笑って部活の鞄を近くの机に置くと、紀乃と星谷を交互に見つめた。

いやぁ、いつから仲良くなったんだか。

嫉妬しちゃうなぁ、なんて?
私
お前は帰れーって言われたー
縞原 紀乃
縞原 紀乃
は?何で?
私
そりゃもちろん、私の才能に恐れおののいて········って、待って待って、そんな冷たい目で見ないで!
縞原 紀乃
縞原 紀乃
····本当は?
私
ほ、んとは····
私
·····やる気がないなら帰れ、って追い出され、ました
私
って、アーッ!だから待って!そんな冷たい目で見ないでってばぁ!
私がそう叫ぶと、何を思ったのか紀乃が深いため息をつく。
そういう意味じゃないんだけど、と呟くのが聞こえた。
縞原 紀乃
縞原 紀乃
それで元気なかったの?
私
····えぇ?元気?
縞原 紀乃
縞原 紀乃
どーせ、やる気がないって勘違いされてやる気あるって言っても信じて貰えなくて仕方なく帰ってきたんでしょ。顔に書いてある
私
長いこと書いてあるね私の顔····
縞原 紀乃
縞原 紀乃
今度は何?一年の仕事でも代わってたの?
ぎくり、と私の体が固まった。図星だ。

なんで分かるの。エスパーか何かなの?
縞原 紀乃
縞原 紀乃
集団行動キライ、人と関わるのキライ、の人間不信まっしぐらな波木が何で陸上部入ったかは知らないけど、ただでさえ部活の人に目ぇ付けられてるんだから気をつけないと駄目じゃん
私
い、いやぁ····あはは
縞原 紀乃
縞原 紀乃
····まぁいいよ。帰ろ。波木なら寝たら忘れる
私
それは····否定できないなぁ
縞原 紀乃
縞原 紀乃
でしょ。だから早く帰って寝よ
私
·····そうだね
私が頷くと紀乃は満足げに笑って、机の上を片付け始めた。
それにはっと気付いた京くんも自分の物を片付ける。どうやら固まっていたらしい。
星谷 京
星谷 京
あ、縞原さん、それ僕の
縞原 紀乃
縞原 紀乃
ほんとだ。はい、どーぞ
星谷 京
星谷 京
ありがとう
あんまり接点がないはずの二人はいつどこで仲良くなったのだろうか。

芸術選択が美術で同じなのは知ってるし、校外学習の班も一緒だった。
けど、それだけじゃない気がする。
縞原 紀乃
縞原 紀乃
波木?行くよ
私
えっ、あ、うん
いつの間にか片付け終わっていた紀乃が、私の肩を叩いた。
半分ボーッとしてた。

私は部活の鞄を肩にかけて、同じく片付け終わっていた京くんに手を振る。
私
バイバイ、京くん
星谷 京
星谷 京
あ、えっと····?バイバイ?
私
あはは、なにそれ
どうやら「京くん」と呼ばれたことに驚いたらしい。

はじめは「ホッシーくん」って呼んでたし、紀乃は「星谷」だし、クラスの人とはあまり話してないから慣れないのかな。
縞原 紀乃
縞原 紀乃
また明日
私
いい夢見てねぇ、京くん
星谷 京
星谷 京
う、うん
縞原 紀乃
縞原 紀乃
波木は遊ばないの。星谷が困ってる
べシッ、と頭をはたかれて、いて、と声が漏れる。
よ、容赦ない····
私
はぁい
にへら、と笑って教室を出た。

外から部活の声が聞こえる。
楽しそうな声だった。



─────すみません、私のせいで····


─────あはは、いーよ。気にしないで。



大丈夫。慣れてる。



だって君、二年に雑用押し付けられてたじゃん。

努力して一年でスタメン入って嬉しそうにしてたのに、努力もできなくてスタメン入りできない二年から練習時間奪われるなんて駄目だよ。

私の二の舞は絶対に駄目だよ。

成績がどんどん落ちて、コーチからも顧問からも見放されて理由を話しても「やる気ない」で一蹴り。
友達少なくて味方なんていないし、なんなら全部が敵だし。


だから、私が味方になるから、どうか君は一生懸命で可愛い後輩のままでいて。

大丈夫。気に病む必要なんてない。


私、こういう方が向いてる。


縞原 紀乃
縞原 紀乃
偉いね、波木
私
まさか。適材適所、ってやつだよ
縞原 紀乃
縞原 紀乃
まーたそんなこと言って
タイムが伸びた、と嬉しそうに友達と話す後輩を窓越しに見つめ、私は歩き出した。

よかった。友達、いるじゃん。
私のやったこと少し無駄だったかなぁ。
縞原 紀乃
縞原 紀乃
波木は偉いの。異論は認めない!
友達。友達、かぁ。

ひとりだけだけど、それで良いって思えるくらいには大好きな友達はいるよ。
私
あはは。紀乃も陸上部入るー?
縞原 紀乃
縞原 紀乃
なぜそうなった??
あぁほんと。紀乃が友達でよかった。

一番の親友、だなんて。それはちょっと、烏滸おこがましいかな。


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