放課後。
夕日でオレンジ色に染まった校舎内をスキップで進み、部活の鞄を肩にかけ直してから入口の横に2ー2と表記された教室に入る。
誰もいない教室の窓側の席に、紀乃と星谷だけが向かい合って座っていた。
机の上には参考書やらノートやらが広げられているので、どうやら宿題を一緒にやっていたらしい。
私はにへらと笑って部活の鞄を近くの机に置くと、紀乃と星谷を交互に見つめた。
いやぁ、いつから仲良くなったんだか。
嫉妬しちゃうなぁ、なんて?
私がそう叫ぶと、何を思ったのか紀乃が深いため息をつく。
そういう意味じゃないんだけど、と呟くのが聞こえた。
ぎくり、と私の体が固まった。図星だ。
なんで分かるの。エスパーか何かなの?
私が頷くと紀乃は満足げに笑って、机の上を片付け始めた。
それにはっと気付いた京くんも自分の物を片付ける。どうやら固まっていたらしい。
あんまり接点がないはずの二人はいつどこで仲良くなったのだろうか。
芸術選択が美術で同じなのは知ってるし、校外学習の班も一緒だった。
けど、それだけじゃない気がする。
いつの間にか片付け終わっていた紀乃が、私の肩を叩いた。
半分ボーッとしてた。
私は部活の鞄を肩にかけて、同じく片付け終わっていた京くんに手を振る。
どうやら「京くん」と呼ばれたことに驚いたらしい。
はじめは「ホッシーくん」って呼んでたし、紀乃は「星谷」だし、クラスの人とはあまり話してないから慣れないのかな。
べシッ、と頭をはたかれて、いて、と声が漏れる。
よ、容赦ない····
にへら、と笑って教室を出た。
外から部活の声が聞こえる。
楽しそうな声だった。
─────すみません、私のせいで····
─────あはは、いーよ。気にしないで。
大丈夫。慣れてる。
だって君、二年に雑用押し付けられてたじゃん。
努力して一年でスタメン入って嬉しそうにしてたのに、努力もできなくてスタメン入りできない二年から練習時間奪われるなんて駄目だよ。
私の二の舞は絶対に駄目だよ。
成績がどんどん落ちて、コーチからも顧問からも見放されて理由を話しても「やる気ない」で一蹴り。
友達少なくて味方なんていないし、なんなら全部が敵だし。
だから、私が味方になるから、どうか君は一生懸命で可愛い後輩のままでいて。
大丈夫。気に病む必要なんてない。
私、こういう方が向いてる。
タイムが伸びた、と嬉しそうに友達と話す後輩を窓越しに見つめ、私は歩き出した。
よかった。友達、いるじゃん。
私のやったこと少し無駄だったかなぁ。
友達。友達、かぁ。
ひとりだけだけど、それで良いって思えるくらいには大好きな友達はいるよ。
あぁほんと。紀乃が友達でよかった。
一番の親友、だなんて。それはちょっと、烏滸がましいかな。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!