放課後になった。
一緒に帰ろう、部活の見学に来ないか、等の声をやんわりと断ってからしばらく経つと、窓の向こうの空は茜色。
教室には俺しかおらず、気が抜けて思わず大きなため息がこぼれる。
転校生といえばやはり席に押しかけ質問攻め大会である。
はっきり言おう。クッッッソ五月蝿い。
ここは放し飼いの動物園なのか??と疑ってしまうほどには五月蝿いし煩わしい。
しかも隣の席の奴には「うさんくさ」と言われる始末。
今日は厄日なのだろうか。散々な一日だった。
せっかく初印象は上々だと思ったのに·····
突然前方から聞こえた声にびくりと肩が大きく揺れた。
ついでに言うならガタンと椅子も揺れた。あと少し傾けば後ろにひっくりかえっていた。
やばい。やばいやばいやばいやばい。
目の前で繰り広げられるツッコミどころ満載な会話におもしろいねーなんて言えないほどにはやばい。
聞かれた?あの素丸出しの独り言を聞かれた?
バレるの早過ぎないか??
やばい状況ではあるが、これには思わずツッコミを入れてしまった。
初対面で「よろしく」の返答に「うさんくさ」も相当だが、今の流れをぶった切れるこいつの神経が計り知れない。
ついでにスルースキルも天元突破している気がする。
それ二回目···。わざわざ無視して聞き直したな?
目の前の人物がこの調子だからか、一周まわって焦りが無くなってしまった。
うーん····誤魔化せるか?
バレてやがる。
もう誤魔化しは効かないらしいので、にこりと笑っていた表情筋を全て削ぎ落とす。
表情筋の労働力節約ってね。
「はわ」って何だよ「はわ」って。
なんだコイツら。言動を受け取るだけで疲れる。
それに···
全員の心臓部分を見やれば、よく分からない動きをする天秤たち。
細かく言うならば、スルースキル天元突破の女は微動だにしない天秤。
ゆったりとした口調の黒髪女はぐるぐる止まりもせずに回り続ける天秤。
気弱そうな「はわ」の男は揺れすぎて一向に定まらない天秤。
そう、心が読めないのである。
こんなの初めてだ。何故なんだと思考を回してみるが結果は惨敗。
考えるだけ無駄だった。
天秤のことはともかく置いておいて、今は俺が猫かぶりであるという情報の拡散の阻止が先だ。
無理だろうなぁ、なんて思いながら口にするが、返ってきた反応は三人ともが一緒に頷く仕草だった。
なんか一人とても悲しい理由の人がいるが、黙っていてくれるらしい。
良かった···のか?
俺はそう言って、様々かつ奇怪な動きをする天秤たちを見る。
···もう考えるのやめよう。
思考は放棄されたのだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。