阿部くんが泣いているところを初めて見た。
いつも明るく振る舞って、
太陽みたいな存在だと思っていた。
だけど、彼にも抱えている苦悩や
辛い過去があったんだ。
私は阿部くんの近くを浮遊するマリア様に視線を移した。
そう言うと、マリア様は小さく笑って私の方へと
ふわりと飛んでくる。
そして小さく耳打ちした。
一言一句違わず伝えると、
阿部くんは少し目を見開いた。
そしてぷっ!と小さく吹き出すように笑う。
いつもの眩しい笑顔で笑う阿部くん。
そして阿部くんはキョロキョロとなにやら空中を見渡し、大声をあげた。
阿部くんはマリア様のいる方向とは、全く別の方向へそう叫んだ。
マリア様はそう言ってポカポカと阿部くんを叩く。
だけど、なぜかとても嬉しそうだった。
我に返ったのか、阿部くんは顔を真っ赤にして
あたふたとしている。
マリア様はそれを見て、大ちゃんらしいと笑っていた。
阿部くんは小さな紙袋を私に差し出した。
紙袋を受け取ると、阿部くんは笑顔で手を振って
マリア様と一緒に長い階段を下りていった。
その足取りは、どこかスッキリとして軽く見えた。
私は鷹宮悠馬を無視して、
紙袋に入っていたものを取り出した。
阿部くんがくれたのは、
私の大好物である幽月堂の苺大福だった。
しかし、鷹宮悠馬は突然口をつぐんだ。
なぜなら、私が泣いていたからだ。
両親がいつも、私のために買ってきてくれたこの苺大福は私にとっては特別なもの。
一口頬ばると優しい甘みがじんわりと沁みた。
そう言って元気よく親指を立てると、
鷹宮悠馬は激怒した。

















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。