思わぬ単語に私はしばらく思考停止した。
なんだか気まずそうに、マリア様は俯いた。
私はやる気いっぱいに、親指を立ててみせた。
あの女たらしの鷹宮悠馬が、キス一つを断るわけがないし。
むしろ好都合だ。
この時ばかりは、カルい男の守護霊で良かったとさえ思えた。
———しかし、その夜。
鷹宮悠馬は真っ赤な顔で却下した。
予想外の返答に、私は一瞬フリーズした。
もしかしてこの男、
私のことを気遣ってくれているのだろうか。
だとしたら案外いいやつなのかもしれない。
まさかの拒否に、私は頭を悩ませた。
この男が、案外まともな価値観を持っていたなんてびっくりだ。
鷹宮悠馬は数秒固まった。
そしてなにやら気まずそうに、もじもじとし始めた。
その様子に私はさすがにショックを受けた。
地味な見た目をしているが、
生前だって肌にはそれなりに気を遣っていたし、
清潔感だけはある方だと思っていたのに。
その日をキッカケに、ファーストキスすらまだな私は大嫌いな鷹宮悠馬の唇を狙うようになった。
こんなことになるなんて、生前は思いもよらなかった。
だけど鷹宮悠馬の鉄壁に阻まれ、
そう簡単に唇を奪うことはできなかった。
その後数日間、私と鷹宮悠馬の戦いは続いた。
———テスト中も。
すかっ。
———お風呂上がりも。
すかっ。
———寝ている間も。
———そして悪霊に追われている最中も。
どれも不発に終わり、私たちはこの不毛な戦いで徐々に疲弊していった。
そう言いかけて鷹宮悠馬は、やべ…という顔をして口を閉じた。
正直な気持ちを誰かにまっすぐ伝えたのは、
これが初めてだったかもしれない。
鷹宮悠馬は観念したように、
はぁと一息ため息をついた。
そう言って私に突然キスをした。
ファーストキスは、口の中にするりと吸い込まれていく不思議な感覚だった。
















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!