第11話

キスで憑依!?
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2026/07/06 09:00 更新
大羽 圭子
大羽 圭子
き、キスで憑依!?

思わぬ単語に私はしばらく思考停止した。
マリア様
マリア様
守護霊に与えられた特権なんだけど、
守護している人間の身体に
憑依することができるの
マリア様
マリア様
だけどその方法が
口と口でのキスしかなくて……
大羽 圭子
大羽 圭子
ど、どうして……?
こう、身体に触れて
ぬるっと憑依するとかは
できないんですか?
マリア様
マリア様
触れるだけでは意味がないの
食べものだって入口は口でしょう?
人間の身体に入り込むのは
口からしか無理みたいで……
なんだか気まずそうに、マリア様は俯いた。
マリア様
マリア様
やっぱりこんな方法良くないし
忘れていいわ
大羽 圭子
大羽 圭子
いいえ……私、やってみます!
マリア様
マリア様
え!?
でもこれは鷹宮くんの
協力も必要だし
承諾してくれるかしら?
大羽 圭子
大羽 圭子
説得してみせます!

私はやる気いっぱいに、親指を立ててみせた。
あの女たらしの鷹宮悠馬が、キス一つを断るわけがないし。

むしろ好都合だ。
この時ばかりは、カルい男の守護霊で良かったとさえ思えた。

マリア様
マリア様
大丈夫かしら……




———しかし、その夜。
鷹宮 悠馬
鷹宮 悠馬
ダメに決まってんだろ!
鷹宮悠馬は真っ赤な顔で却下した。
予想外の返答に、私は一瞬フリーズした。

大羽 圭子
大羽 圭子
あ、そっか!
身体に入られるのは流石に不快だよね
でも、少しの間だけ
身体を借りるだけだから!
鷹宮 悠馬
鷹宮 悠馬
そういう問題じゃねーよ!
むしろ、身体を貸すくらいどうだっていい
憑依の方法がダメって言ってんだよ
大羽 圭子
大羽 圭子
……え、キスがダメなの?
なんで?
鷹宮 悠馬
鷹宮 悠馬
な、なんで!?
好きでもない男女が
キスなんてする方がおかしいだろ!
鷹宮 悠馬
鷹宮 悠馬
それにあんたは阿部が好きなのに
俺とキスなんかして嫌じゃねーのかよ
もしかしてこの男、
私のことを気遣ってくれているのだろうか。

だとしたら案外いいやつなのかもしれない。

大羽 圭子
大羽 圭子
私は別にいいけど
そもそも、気持ちがない口と口との
接触をキスなんて言わないし……
作業、みたいな?
鷹宮 悠馬
鷹宮 悠馬
その貞操観念はどうなの?
もっと自分を大切にしろよ
大羽 圭子
大羽 圭子
あなたには言われたくないよ!
まさかの拒否に、私は頭を悩ませた。
この男が、案外まともな価値観を持っていたなんてびっくりだ。

大羽 圭子
大羽 圭子
あっ!!もしかして
そっちが私とキスするの嫌なの?
鷹宮 悠馬
鷹宮 悠馬
えっ……
鷹宮悠馬は数秒固まった。
そしてなにやら気まずそうに、もじもじとし始めた。

その様子に私はさすがにショックを受けた。

大羽 圭子
大羽 圭子
(そんなにキモい存在だと
思われてるなんて……)
大羽 圭子
大羽 圭子
(これって生理的に無理、 
的なやつだよね?)

地味な見た目をしているが、
生前だって肌にはそれなりに気を遣っていたし、
清潔感だけはある方だと思っていたのに。
大羽 圭子
大羽 圭子
どケチ!
減るもんでもないのに!!
鷹宮 悠馬
鷹宮 悠馬
なんだと!
大羽 圭子
大羽 圭子
……説得は無理ってことはわかった
ならここからは実力行使だ!
鷹宮 悠馬
鷹宮 悠馬
なっ……!?
何すんだよあぶねーな!
大羽 圭子
大羽 圭子
避けるなんてひどい!
鷹宮 悠馬
鷹宮 悠馬
こっちのセリフだ!
不意打ちでキスしようとするとか
自分が何してんのかわかってんのか!?
大羽 圭子
大羽 圭子
わかってる!
私は諦めないから!
 その日をキッカケに、ファーストキスすらまだな私は大嫌いな鷹宮悠馬の唇を狙うようになった。

こんなことになるなんて、生前は思いもよらなかった。

だけど鷹宮悠馬の鉄壁に阻まれ、
そう簡単に唇を奪うことはできなかった。

その後数日間、私と鷹宮悠馬の戦いは続いた。


———テスト中も。
大羽 圭子
大羽 圭子
えいっ!!
鷹宮 悠馬
鷹宮 悠馬
っ……!
すかっ。

———お風呂上がりも。
大羽 圭子
大羽 圭子
隙ありっ!
鷹宮 悠馬
鷹宮 悠馬
あぶねっ……!

すかっ。

———寝ている間も。

大羽 圭子
大羽 圭子
いまだっ……
って、あぁ!マスクしてる!
鷹宮 悠馬
鷹宮 悠馬
………

———そして悪霊に追われている最中も。
大羽 圭子
大羽 圭子
逃げるよ!こっちこっち!
鷹宮 悠馬
鷹宮 悠馬
どさくさに紛れてキスしようとすんな!
 どれも不発に終わり、私たちはこの不毛な戦いで徐々に疲弊していった。
大羽 圭子
大羽 圭子
はぁはぁ……
なんでこうまでして避けるの!?
鷹宮 悠馬
鷹宮 悠馬
そっちこそ
こんな望まないキスまでして
阿部に想いを伝えたいのかよ
鷹宮 悠馬
鷹宮 悠馬
伝えた先はどうするんだよ
大羽 圭子
大羽 圭子
伝えた先……?
鷹宮 悠馬
鷹宮 悠馬
そうだよ!
どうせあんたはもうオバケで
死んでるんだよ!
鷹宮 悠馬
鷹宮 悠馬
気持ちを伝えたって
阿部とは付き合えるわけじゃないし
この先の未来なんてないのに——

そう言いかけて鷹宮悠馬は、やべ…という顔をして口を閉じた。

鷹宮 悠馬
鷹宮 悠馬
わり……
今のはさすがに言いすぎた……
大羽 圭子
大羽 圭子
ううん
言いたいことはわかるよ
でも、私は想いを伝えて
その先を期待してるわけじゃないの
大羽 圭子
大羽 圭子
ただ阿部くんに感謝を伝えたいだけ
阿部くんが私の生きる意味だったから

正直な気持ちを誰かにまっすぐ伝えたのは、
これが初めてだったかもしれない。

鷹宮悠馬は観念したように、
はぁと一息ため息をついた。

鷹宮 悠馬
鷹宮 悠馬
……俺の負けだ
しょうがないから
身体、貸してやるよ
そう言って私に突然キスをした。

ファーストキスは、口の中にするりと吸い込まれていく不思議な感覚だった。

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