その後、俺は無事に大羽圭子から
身体を返してもらった。
もうすでに夕日は沈みきっていて、
あたりは薄暗い黄昏時。
隣で浮遊しながらスッキリした顔の大羽を見ると、
なぜか少しだけ胸のあたりがモヤモヤし始めた。
自分で言い始めたのに、言葉が詰まってしまう。
けろっとした返事に、思わず顔を上げる。
大羽圭子は、誇らしげに笑った。
もしかして俺、
コイツが残ってくれることに安心したのか?
コイツと離れ離れになるのが嫌だから?
いやいや、ただ単にオバケが怖いから、
これからも守ってくれることに安心したんだよな?
そ、そうだよな……?
ぐるぐると謎に混乱する自分に、
そう言い聞かせて俺は足早に家路についた。
しかし、家についても俺はその混乱の最中にいた。
そして夜になっても眠れず、気がつけば朝日が登っていた。
俺は大きくため息をついた。
朝飯の用意をするため、冷蔵庫を物色しているとふと昨日の紙袋を見つけた。
そう言って、大羽圭子は突然俺の唇を奪った。
尻の方から押し出されるような感覚があり、
するりと魂が抜け出る。
憑依するために平然とキスをやってのけた大羽圭子。
顔を真っ赤にして抗議するが、
当の本人はけろっとした様子で苺大福に夢中だ。
そう言われて俺は初めてはっとする。
女子からキスしてと言われれば、
別にいくらでもしてやっていた。
それはまるで可愛い猫を愛でるような感覚で、
簡単で軽いもの。
何も恥ずべき行為ではない。
だけど、こんなにも心臓がドキドキと
鳴り響いたことは一度もなかった。
よりによって、俺の顔で苺大福を口いっぱい頬張り、
幸せそうに微笑んでるこんなやつを……?
それももう、この世にいないオバケなんかに。
今までの俺は、数々の女子たちを手玉にとって恋という沼に落としてきた。
それはある種のゲームみたいなものだ。
オバケという恐怖から逃げるためなら、
相手の恋心だって利用してきた。
すべては俺の手のひらの上で、コントロール可能だった。
だけど、今はどうだ?
気づけば、大羽圭子の言動にいつも振り回され、
心臓がドキドキと高鳴っている。
確実に俺のコントロールが効かない状態だ。
俺は恋に落ちる側はまだ未経験。
つまり、俺にとってこれは正真正銘の「初恋」なのだ。
口元に白い粉をたっぷりつけた大羽圭子を見て、
俺は大きなため息を吐いた。
(死後24日経過/お迎えまであと25日)

















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。