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第1話

見守るだけで幸せなんです
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2026/04/27 09:00 更新
 私は春から高校2年生になった、大羽 圭子おおば けいこ
このトンチキな名前のせいで、クラスメイトからは
「オバケさん」なんてあだ名で呼ばれている。

まあ、名前だけが原因じゃないんだけど。
自他共に認める、圧倒的な影の薄さも原因の一つだ。

そしてこの影の薄さにはひとつだけ利点がある。
それは誰にも気づかれず、大好きな人をこっそり見守れること。
大羽 圭子
大羽 圭子
阿部くん、まだかな……

これは断じてストーカーではない。
いわば「推し活」だ。

阿部 大吾
阿部 大吾
おはよーございまーす!
大羽 圭子
大羽 圭子
阿部くんだっ!
今日も眩しすぎるっ…!

先生に元気に挨拶をしている爽やか男子こそが、
阿部 大吾あべ だいごくん。

人気者なのに、誰かを見下げたりしない。
私みたいな相手にもいつも笑顔で接してくれる。

そういうところが自慢の推しなのだ。
大羽 圭子
大羽 圭子
あっハンカチ落とした!
もう、本当におっちょこちょいだなあ〜
でもそれすら尊い……
彼の落としたハンカチを拾って拝んでいたら、
クラスの女子がしゃがんでいた私につまずいて悲鳴をあげた。
クラスメイト
ぎゃあっ!!
な、なんだオバケさんか〜
もう急に現れてびっくりさせないでよ〜
大羽 圭子
大羽 圭子
あはは…ごめんごめん
大羽 圭子
大羽 圭子
(ぶつかってきたのは
そっちでしょうが!)
なんて、口に出せたらきっと楽なのに。

だけど、みんなを驚かせるのはもう慣れっ子だ。
「オバケさん」というあだ名だって、今ではとてもしっくり来ている。

何より私のあだ名への価値観を変えてくれたのが、
中学時代の阿部くんだった——。


————
——————
男子生徒
でたなっ大羽圭子!!
略してオバケ〜なんつって!
女子生徒
ちょっと可哀想じゃ〜ん
オバケさん泣きそうじゃん
男子生徒
お前もオバケって呼んでんじゃん
女子生徒
あ、ごめ〜ん
だって呼びやすいんだも〜ん!
見た目も暗くてぴったりだし〜
そんな風にからかわれていた私を救ったのが、阿部くんの何気ない一言だった。
阿部 大吾
へ〜〜オバケか
いいじゃん、オバケ!
俺は可愛い響きだと思うけどな
大羽 圭子
へ……?
私は一瞬、耳を疑った。
まさかこの流れで「可愛い」なんて言葉が
でてくると思ってなかったから。
阿部 大吾
てかお前ら、大羽さんのこと好きなの?
なんか好きな子いじめる小学生みたいだぞ
ガキみたいなことすんなよな〜
女子生徒
はあ?!
男子生徒
好きじゃねーし!!
その日以来私へのからかいは、ぴたりとやんだ。
そしてチョロい私は見事に恋に落ちたのだった。

——————
————



 しかし、阿部くんと同じ高校に進学しても、
話しかけることすらできなかった。

今日も阿部くんの落としたハンカチをそっと机に返す。
鷹宮 悠馬
鷹宮 悠馬
好きなら告白すれば?
大羽 圭子
大羽 圭子
げっ!……でた
鷹宮 悠馬
鷹宮 悠馬
は?なにその反応
俺がオバケみたいじゃねーか
あ、オバケはそっちかw
この生意気で性格の悪い男は、鷹宮 悠馬たかみや ゆうま
阿部くんと肩を並べるほどモテる一軍男子だ。

だが阿部くんとの決定的な違いは、
コイツがとんでもなくカルい男だということ。

女癖が悪いという噂は、嫌というほど耳に入ってくる。
私の関わりたくない男子、No.1だ。

大羽 圭子
大羽 圭子
ほっといてください
鷹宮 悠馬
鷹宮 悠馬
でも、ずっとストーカーしてんのバレたら
嫌われるんじゃない?
大羽 圭子
大羽 圭子
バレないから大丈夫……
っていうかストーカーじゃないし!
 
私がコイツを嫌う理由は他にもある。

去年、委員会が同じになった時、
私に作業を押し付け平然とすっぽかしたのだ。

何百枚ものプリントを、ひとりでホッチキスした
あの恨みは忘れない。
阿部 大吾
阿部 大吾
おーい悠馬!売店行こうぜー
あれ、俺がなくしたハンカチ
お前が拾ってくれたの?
鷹宮 悠馬
鷹宮 悠馬
え……?
あぁ、それはコイツが……
って、あれ?いない
阿部くんの気配をいちはやく察知した私は、
一目散に逃げだしていた。
大羽 圭子
大羽 圭子
(どうしてアイツはこうも
私に絡んでくるの?)
阿部くんを見守っている間は、
いつもより一層影を薄くしてるはずなのに。

いつどこにいたって無遠慮に話しかけてくる。

それにアイツと阿部くんが仲良しなのも解せない。
今年同じクラスになったばかりなのに、
気づけば私よりずっと近くにいる。

いつの間にか、親友みたいな顔までして。






———翌朝。

 私はいつものように、阿部くんを校門前で待ち構えるため、誰よりも早く家を出て学校へと向かっていた。
鷹宮 悠馬
鷹宮 悠馬
好きなら告白すれば?
嫌いなアイツの言葉が耳の奥で響く。


告白?
そんなの恋愛強者がやることだ。

もし告白ができたとしても、
あっさり振られるのが関の山だ。

大羽 圭子
大羽 圭子
見守るだけで幸せなんです……!

そう自分に言い聞かせて、私は横断歩道を渡った。

この時の私は、
幸せな推し活が永遠に続くと思っていた。

だが、信号無視のトラックに衝突された私の人生は、
あまりにもあっけなく終わりを告げたのだった。

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