時刻は午後六時。場所は我が家のリビング。
こうなることは、分かってたはずなのに。
腕に私の妹二人をくっつけたまま、園田くんが表情も変えずにそう言った。
あの後、クラスメイトを一人夕食に誘いたいとお母さんに連絡を入れたら、即了承の返事。
家に帰ってドアを開けた瞬間、お出迎えしてくれたももの叫び声から始まり
家の中はたちまちいつも以上に騒がしくなってしまった。
もも曰く、私が連れてくるのは女友達だと思っていたらしい。
それが男子で、しかも園田くんのようなイケメンだったので、この大騒ぎ。
リビングのソファに座る園田くんの左右の腕にしっかりしがみついている、ももとゆり。
ふゆきはダイニングの椅子に座って、それをニヤニヤ見ている。
一人ひとり紹介するたびに、園田くんはちゃんと本人たちを見ている。
クラスでは誰が何を話そうと、決して目を合わせなかったのに。
私の家族に対しては、人嫌いが発揮されていないみたいだった。
取っ組み合いを始めそうなももとふゆきを止めている間に、
いつのまにかゆりが園田くんの膝の上に座っている。
まだ騒いでいるももとふゆきを宥めていると、
やっとお母さんからご飯が出来たという声がかかった。
ふゆきが座っていたダイニングテーブルに並べられるカレー。
駄々を捏ねるももに、頭を抱える。
今日だけで何回頭を抱えればいいんだろう……。
お母さんの一言でようやくももとふゆきも大人しくなり、全員がいただきますと声を揃えた。
園田くんの素朴な疑問にすかさず反論すると、静かに笑われる。
何回見ても、園田くんの笑顔は慣れない。
いや! 嬉しいんだけど!
慣れない笑顔はドキドキしちゃうから心臓に良くない!
食べ始めても、騒がしさはおさまらない。
というよりも、さっきよりもずっとうるさい。
こういう食卓に慣れてなさそうな園田くんが心配になってちらりと様子をうかがうと、
そこにあったのは私が思っていたような表情じゃなかったのでほっとする。
嫌じゃないならよかった。
安心して、私も目の前のカレーを食べ始めた。
デザートまで食べ終えると、外はすっかり暗くなっていた。
駅まで送ると言ったのに、大丈夫だと言われたので、家の前で見送ることにする。
ももとゆりもお見送りしたがったものの、
さすがに家の外にあの騒がしさを出すのはよくないのでお留守番してもらっている。
そう言った園田くんは、また手首を握ってた。
そんな園田くんをそのまま帰すのはなぜかダメな気がして、
私は思わず彼の手を取った。
園田くんが自分の手首を掴むように、ぎゅうっと強く、手を握る。
考える前に口から出てきた言葉。
賑やかすぎるのが嫌だったかなとか、そんな不安や遠慮はもうなかった。
また来て、食事を楽しいものだって覚えてほしい。
必死な私の前で、ぽかんと驚いてた園田くんは、ゆっくりと笑顔になった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!