第14話

彼の家族の話
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2022/09/11 23:00
園田 類
園田 類
……もともと、絵を描くのは好きだった
園田 類
園田 類
でもそれは、ずっと小さい時の話
手首を掴んだまま、園田くんが話し出す。
一言も聞き逃したくなくて、私は筆をおいて園田くんに向きあうように座った。
園田 類
園田 類
昔、……まだ小学校に上がってすぐの頃。学校で絵を描く授業があったんだよ。
それで、俺は家族を描いた
園田 類
園田 類
一生懸命色も使って、先生にだって褒められた
園田 類
園田 類
でも、父親に目の前で破られた
微笑ましい話から一転、衝撃的な事実に、私は息を飲む。
小学生の息子が頑張って描いた家族の絵を、目の前で、父親が破るなんて。
園田 類
園田 類
……傍で見てた母親も、止めたり、慰めたりなんてしてくれなかった。
逆に、父の機嫌を損ねたことを怒られた
野間しおん
野間しおん
そんな……
園田 類
園田 類
ひどいだろ。でも俺の家ってそんなもんなんだよ
父は家族よりも仕事優先でめったに帰ってこないし、母はそんな父に怯えてる
園田 類
園田 類
父が帰ってくれば機嫌を損ねないようにしなきゃいけないし
もし機嫌を損ねたら母は俺を盾に使う
変わらず絵を見つめている園田くんの目に涙はない。
怒りも悲しみもない。ただただ、諦めたような感情しかなかった。
園田 類
園田 類
その後も何度も絵を描こうとしたんだよ。
……部屋に籠っててもやることなんてないし。
でも、描けなかった
野間しおん
野間しおん
……思い出しちゃうんだ
園田 類
園田 類
……普段家にはいないくせに、記憶の中にだけは常にいるんだ。
ほんと、鬱陶しい
表情を変えずに、ただ手首を握る力だけが強くなっていく。
そんなに握ったら、痛いのに……。
園田 類
園田 類
父も母も、今じゃいないようなもんなんだ
仕事に明け暮れてる父はめったに家に帰ってこないし、母も家にいない
園田 類
園田 類
ご飯食べるのだって一人だし、唯一家族の存在を感じるのは
月に一回、机に置かれてる生活費くらい
園田くんの口から明かされる事情に、言葉が出てこない。
だって、それこそ架空の物語みたい。
まだ高校生なのに、そんな苦しい時間を過ごしてただなんて。
園田 類
園田 類
確かに前から父は帰ってこなかったけど
絵を破った日からさらに帰ってこなくなった
園田 類
園田 類
俺が描いた仲良しこよしの家族なんてバカらしいと思ったんじゃないかな
野間しおん
野間しおん
それは……
園田 類
園田 類
母が俺を盾に使うようになったのもその日から
園田 類
園田 類
父の機嫌を損ねたことがあるから使いやすかったんだろうな
野間しおん
野間しおん
……
園田 類
園田 類
人間ってそんなもんだよな。身勝手だし、残酷なんだ
私はただ彼の言葉を聞くことしかできなかった。
掴んでいる手首が痛そうで、でも、それが園田くんの心の痛みを示しているようで
簡単にやめなよ、なんて言えなかった。
園田 類
園田 類
父も母も人なんて道具みたいに思ってるんだ。
どうやって使うか考えながら、日々生きてると思うと吐き気がする
園田 類
園田 類
そんな奴らのこと知りたいとか思わない
なんとなく、本当になんとなくだけど、
園田くんの人嫌いの理由が分かった気がした。
園田くんはずっと一人だった。
頼れるはずの大人は自分を害するものでしかなくて、
何もかもを一人で処理するしかなかった。
そんな園田くんは自分を守るために、他人への壁を高く作ったんだ。
園田 類
園田 類
父も母も、俺のことを子供だなんて思ってない。
身近にいる、使いやすい道具だって思ってる
そう言った園田くんの声は、小さくて、何の感情も乗っていなかった。

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