手首を掴んだまま、園田くんが話し出す。
一言も聞き逃したくなくて、私は筆をおいて園田くんに向きあうように座った。
微笑ましい話から一転、衝撃的な事実に、私は息を飲む。
小学生の息子が頑張って描いた家族の絵を、目の前で、父親が破るなんて。
変わらず絵を見つめている園田くんの目に涙はない。
怒りも悲しみもない。ただただ、諦めたような感情しかなかった。
表情を変えずに、ただ手首を握る力だけが強くなっていく。
そんなに握ったら、痛いのに……。
園田くんの口から明かされる事情に、言葉が出てこない。
だって、それこそ架空の物語みたい。
まだ高校生なのに、そんな苦しい時間を過ごしてただなんて。
私はただ彼の言葉を聞くことしかできなかった。
掴んでいる手首が痛そうで、でも、それが園田くんの心の痛みを示しているようで
簡単にやめなよ、なんて言えなかった。
なんとなく、本当になんとなくだけど、
園田くんの人嫌いの理由が分かった気がした。
園田くんはずっと一人だった。
頼れるはずの大人は自分を害するものでしかなくて、
何もかもを一人で処理するしかなかった。
そんな園田くんは自分を守るために、他人への壁を高く作ったんだ。
そう言った園田くんの声は、小さくて、何の感情も乗っていなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。