第19話

寂しい時間
1,091
2022/10/16 23:00
一人でご飯を食べるようになって一週間。
短いようで、私には随分長く感じた
野間しおん
野間しおん
(一人で食べるご飯って、こんな味気なかったっけ)
大好きなはずのサンドイッチは、全然味がしない。
お腹は空いてるはずなのに、いざ食べようとしても喉を通らない。

楽しいと思わない。
美味しいとも思わない。
こんな時間、早く過ぎ去っちゃえばいいのに。

そう思ってしまうご飯の時間は初めてだった。
野間しおん
野間しおん
(園田くんもこんな感じだったのかな)
確かに、こんな風に感じるなら飲料ゼリーでパパっと終わらせちゃうのも頷ける。
だって、美味しくないんだもん。

そんな園田くんが、ご飯を食べてくれるようになったのは嬉しかった。
美味しいって、楽しいって思ってくれるのは、嬉しかった。
野間しおん
野間しおん
(私、また園田くんのこと……)
最近ずっと、考えてるのは園田くんのことだった。
自分で避けてるくせに、目は園田くんのことを追って、頭では園田くんのことを考えてる。

前みたいに話しかければいいのかもしれない。
だけど、そんなことをしたら自分のこの醜い感情も出てきてしまいそうで嫌だった。
水瀬くんよりも私のことを考えてほしい。
水瀬くんよりも私のことを見てほしい。
だけど、それはきっと、この先も叶わないと思う。
相変わらずクラスでは人嫌いが発動してるし、「アンドロイド」だなんて呼ばれてるけど、
本当の園田くんはちゃんと人間らしい人なんだって、私は知ってる。
でもそれを知ることができたのは、水瀬くんがいたから。

水瀬くんが園田くんの心を癒してるから。
じゃないと、園田くんはきっと、この学校の誰とも話さない。
園田くんにとって、水瀬くんは唯一無二の存在なんだ。

そんな水瀬くんに、私なんかが勝てっこない。

なのに水瀬くんに嫉妬してるだなんて、おこがましいにもほどがある。
野間しおん
野間しおん
よくないな、……うん、よくない
水瀬くんは本当に良い人だ。……いいアンドロイド、の方が正しいのかな?
人間同士だって相手が何を考えているのかを本当に理解するのは難しいのに
水瀬くんは人の心を読むのがうまかった。

だからきっと、私の感情にも気が付いてる。
気が付いたうえで、こんな醜い感情を抱いている私のことも心配してくれてる。
声を掛けてこないのは、私のことを思っての行動だってわかる。

私はエスパーなんかじゃないけど、水瀬くんの気遣いは手に取るようにわかった。

これ以上口に運ぶ気になれない食べかけのサンドイッチを包みなおして、
私は木の根元から立ち上がった。



最近全く絵が描けないけれど、バイトがない日の放課後は自然と美術室に足が向かう。

なんとなく、心が落ち着くから。
いろんな園田くんを知ったのも、いろんな水瀬くんを知ったのも美術室。
二人のことを知った場所に居れば、心が凪ぐような気がした。
本当に、気がするだけだけど。


そんな思い出の場所では、とことんいろんなことが起きるらしい。

私が美術室の扉を開くと、そこには先客がいた。
野間しおん
野間しおん
園田くん……?
イーゼルもキャンバスも置かれていない美術室。
だけど、まるで私が絵を描いているのを後ろから見ているような場所に立っていた。
園田くんが、ゆっくりと振り返る。

感情のない「アンドロイド」だなんて言われているのが嘘のように、
その目には寂しいという色がありありと浮かんでいた。

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