第20話

どうしたって敵わない
720
2022/10/23 23:00
野間しおん
野間しおん
園田くん……?
無人だと思っていた美術室にいた先客。
寂しい目をした園田くんに、私はびっくりして駆け寄った。
野間しおん
野間しおん
どうしたの? なにかあった?
こうやってぐいぐい行くのがよくないのかな。
水瀬くんだったらきっとこんなことはしない。
そもそも慌てて駆け寄ったりもしないと思う。
もっと落ち着いて話を聞いたり、柔らかく笑って安心させたりするに違いない。
園田 類
園田 類
なにかあったのは、そっちじゃないの?
野間しおん
野間しおん
え?
首を傾げた私の視界に入ってきたのは、自分の手首を握る園田くんの手。
きゅっと手首を握る園田くんは、どこか幼い感じがした。
園田 類
園田 類
昼も急に来なくなったし、話しかけてこなくなったし
野間しおん
野間しおん
それは……
園田 類
園田 類
光に聞いてもわかんないっていうから、俺、何かしたのかなって
不安そうな声。
彼のこんな声を聞くのは初めてだ。

私が何も言えずにいると、震える声で彼が続ける。
園田 類
園田 類
何かしたなら謝るから、言って欲しい。
俺、そういうのわかんないから
園田 類
園田 類
話すようになったのは光としおんだけだし、わからないんだ。
なにが人を怒らせるかなんて
野間しおん
野間しおん
ち、ちがう、怒ってないの! 園田くんはなんもしてない!
まるで怒られた子供のようにうつむく園田くんに、私は思わず大きな声を出した。
私の態度でこんなにも心配させてたなんて。
野間しおん
野間しおん
私が勝手に距離を取ってただけなの! 園田くんも水瀬くんも何もしてない
野間しおん
野間しおん
ごめんね……
園田 類
園田 類
……ほんとに?
野間しおん
野間しおん
うん、ほんと。大丈夫だよ
園田 類
園田 類
なら……うん、よかった
そう話す園田くんは、相変わらず手首を掴んだまま。
きっと、まだ不安に思ってることがあるんだろう。
野間しおん
野間しおん
……ごめんね園田くん、不安にさせて。思ってること全部話してよ
野間しおん
野間しおん
怒らないよ、絶対に
園田 類
園田 類
……やっぱりエスパーだったりする?
野間しおん
野間しおん
国語の読み取り問題は得意だもん
得意げに笑って見せると、園田くんがホッとしたように目じりを下げた。
笑ってはいないけど、雰囲気が和らいだのを感じる。
園田 類
園田 類
しおんがいなくなって、寂しかった。昼も、前と同じはずなのに、静かに感じた
園田 類
園田 類
光ともよく話すけど、やっぱり、しおんとは違うんだよな
手首を掴んだままの彼の目は、ずっと足元に向けられている。
園田 類
園田 類
ずっとしおんのこと考えてた。
何かしたなら謝りたいし、また、一緒にご飯を食べたいとも思った
園田 類
園田 類
何の理由もないけど、ずっと一緒に居たいって思ってた
思わぬ発言に、私は目を見開いた。
顔を上げた園田くんと目が合う。
園田 類
園田 類
光から、恋愛感情っていうものを教わったんだ
野間しおん
野間しおん
え……?
園田くんの手が、ゆっくりと私に伸ばされる。
私の手を取った彼の指先は、微かに震えていた。
園田 類
園田 類
俺は、誰かとずっと一緒に居たいと思ったのは初めてだった。
何かあったなら気になるし、悩んでるなら傍にいてやりたいと思う
園田 類
園田 類
上手く、言葉にできないんだけど、でも、人にそう思ったのは初めてだった
園田 類
園田 類
これが、多分好きだってことなんだって
園田くんの表情は険しい。
思っていることを上手く言葉にできなくて、やきもきしてそうな表情。
それなのに、一生懸命伝えようとしてくれてる。
園田 類
園田 類
この感情を光にも感じてるし、しおんにも感じてる
あぁ、そこでも水瀬くんと一緒なんだ。
やっぱり、水瀬くんには勝てない。
昂っていた感情が、すんと下がっていく。
野間しおん
野間しおん
(……私ってやっぱり醜いなぁ……)
園田くんの気持ちは嬉しい。
水瀬くんを仲間外れにしたいわけじゃない。

でも私は、水瀬くんに勝ちたいと思ってしまった。
好きって感情を、私にだけ感じてほしいと思ってしまった。

園田くんにとって、私は一番じゃない。

そう思う自分が、嫌で嫌でしょうがなくて、胸が痛む。
園田 類
園田 類
出来るなら、また一緒に昼、食べたいと思う。何か悩んでるなら、相談に乗る。
……多分、何にもできないし、
話聞くことしか出来ないけど、しおんは大切だから
園田 類
園田 類
あぁ違う、えっと……こういう時は、“好き”って言うんだっけ……?
つながった手を見つめながら、視線を忙しなく動かしている。
今まで見たことない園田くんに、胸が高鳴った。

必死に伝えようとしてくれる園田くんを、心の底から愛おしいと思った。

野間しおん
野間しおん
ありがとう園田くん。……うん、また一緒にご飯食べよう
震えている手をぎゅっと握り返すと、園田くんが安心したように肩の力を抜くのがわかった。
あぁ、もう、なんでもいいや。
園田くんが喜んでくれるなら、私は二番でも三番でもいいや。

プリ小説オーディオドラマ