そう話した園田くんは、痛いくらいに手首を握って俯いてた。
でも、それでも声は震えてない。
きっと、心の底からそう思ってるんだ。
事実として捉えてるから、悲観することも無いんだ。
でもそれって、悲しすぎる。
園田くんの親御さんを見たことはない。
話を聞いたのも今日が初めてだ。
他人の両親を批判する権利はないかもしれないけど、あんまりだよ。
私だって絵を描くからわかる。
どんな構造にしようか、どんな色を使おうか。
いっぱい考えて悩んで、自分が思い描いた世界を描くにはすごく時間も労力もかかる。
小さな園田くんも、きっとそうやって自分だけの一枚を完成させたんだ。
カッとなって叫んでいた私の耳に聞こえてきた柔らかい声。
言葉を選ぶこともできないくらい感情的になっていた私は、
喋ることも忘れて園田くんを見た。
だって、だって、
あの園田くんが笑ってる……。
初めて見た園田くんの笑顔は、綺麗だった。
はじけるような笑みじゃなくって、緩やかに口角が上がってる。
でも、目じりが少し下がっているような感じがして、柔らかい印象。
見つめられて、私は思わず制服の裾を握った。
初対面の人と喋っているみたい。
心臓がうるさくって、ほっぺたが少しだけ熱い。
そう言った園田くんは、傍にあった机に腰かけた。
項垂れるように下を向いた彼は、もう手首を握ってなかった。
軽く笑った。
その表情は、いつも見てるものよりもずっと柔らかい。
そう言った園田くんに、心がポカポカした。
だって、お昼ってことは私や水瀬くんと食べるから?
賑やかな食事の時間を知ったからかな?
……なんて、ぬぼれかもしれないけど。
でも。
食事は楽しいものなんだよって知ってほしい。
園田くんにもっともっといっぱい食べてほしい。
私の言葉に驚いていた園田くんは、戸惑いがちに、でも、小さく頷いてくれた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。