学校の裏庭にある一本の大木の下。
そこで最近流行りの音楽を聴きながらデッサンしていた私は、
とある曲に胸をうたれ、ぼろぼろと涙をこぼしていた。
お互いのことが大好きなのに一緒にいることを選べず、最後は離れ離れになってしまう二人。
そんな歌詞が切なすぎて、悲しすぎて、胸が痛い。
拭っても拭っても出てくる涙が、膝の上に広げたスケッチブックに落ちそうになる。
慌ててスケッチブックをどかして、ハンカチを探した。
スカートのポケットにも、ブレザーのポケットにも、目当てのハンカチは見当たらない。
思わず立ち上がって何度も何度も確認するけど、やっぱりない。
涙も拭きたいし、そろそろ日も傾いてきたし、
私はデッサンを切り上げて教室に戻ることにした。
すでに下校時刻が迫っているので、校内に残っている人はあまりいない。
部活動がある生徒はほとんど部室に行っているので、この時間の教室でクラスメイトに会うことなんてない。
と思っていたのに。
私の足は、教室の手前でぴたりと止まった。
静かな教室から聞こえてくる、静かな声。
開いていた後ろのドアからそっと覗き込めば、そこにいたのは二人のクラスメイトだった。
いつも窓際の一番後ろの自分の席からほとんど動かず、人嫌いで有名な園田類くん。
そして、明るくて人懐っこくて、クラスの人気者な水瀬光くん。
夕日を浴びながら向かい合って座っている彼らは、
まるで二人だけの世界にいるように思えた。
窓から差し込むオレンジ色の光に照らされて、
水瀬くんの耳についているピアスが光った。
私の存在に気付かずに、和やかに会話する二人。
その光景に、私はただただ驚くことしか出来なかった。
クラスメイトとはいえ、園田くんが話しているところなんてほとんど見たことがない。
彼が話すのは、授業で先生に当てられたときくらい。
誰が話しかけても視線すら向けてくれなくて、基本無表情で、
『アンドロイド』みたいだと有名なのだ。
最近は人間そっくりのアンドロイドが、お店での接客や介護現場などで活躍することが増えているらしい。
私はまだ本物のアンドロイドをテレビでしか見たことがないけど、
園田くんはとっても整った顔をしているので、しっくりくる呼び名だと思っていた。
感動のあまり叫びそうになるのを堪えるために、あわてて口を塞ぐ。
イヤフォンを外した園田くんがまっすぐに水瀬くんを見る。
園田くんの言葉に、時が止まった。
アンドロイド……?
水瀬くんが……?
ハンカチを取りに来たことも忘れて、
私はその場に立ち尽くすことしか出来なかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。