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第1話

気になるクラスメイト
10,330
2022/06/12 23:00
野間しおん
野間しおん
うぅう……っ、切ないぃ……!
学校の裏庭にある一本の大木の下。
そこで最近流行りの音楽を聴きながらデッサンしていた私は、
とある曲に胸をうたれ、ぼろぼろと涙をこぼしていた。

お互いのことが大好きなのに一緒にいることを選べず、最後は離れ離れになってしまう二人。
そんな歌詞が切なすぎて、悲しすぎて、胸が痛い。
野間しおん
野間しおん
(うぅ……離れて気づく相手の大切さ……って……
 ありがちだけど、やっぱり心に刺さる……ッ!)
拭っても拭っても出てくる涙が、膝の上に広げたスケッチブックに落ちそうになる。
慌ててスケッチブックをどかして、ハンカチを探した。
野間しおん
野間しおん
あ、あれ……?
スカートのポケットにも、ブレザーのポケットにも、目当てのハンカチは見当たらない。
思わず立ち上がって何度も何度も確認するけど、やっぱりない。
野間しおん
野間しおん
あッ!
野間しおん
野間しおん
(そうだ、体育のときにジャージに入れてそのままだ……!)
涙も拭きたいし、そろそろ日も傾いてきたし、
私はデッサンを切り上げて教室に戻ることにした。



すでに下校時刻が迫っているので、校内に残っている人はあまりいない。
部活動がある生徒はほとんど部室に行っているので、この時間の教室でクラスメイトに会うことなんてない。
と思っていたのに。
私の足は、教室の手前でぴたりと止まった。
静かな教室から聞こえてくる、静かな声。
開いていた後ろのドアからそっと覗き込めば、そこにいたのは二人のクラスメイトだった。
??
るい、これ聞いてみて。僕のおすすめ。
曲は明るいのに切ない歌詞なんだ
園田 類
園田 類
へぇ、ひかるのおすすめなら聞いてみる
水瀬 光
水瀬 光
いい曲は他にもたくさんあるよ、類も色々聞いてみたら?
園田 類
園田 類
いや、それはいい
いつも窓際の一番後ろの自分の席からほとんど動かず、人嫌いで有名な園田そのだ類くん。
そして、明るくて人懐っこくて、クラスの人気者な水瀬みなせ光くん。

夕日を浴びながら向かい合って座っている彼らは、
まるで二人だけの世界にいるように思えた。
窓から差し込むオレンジ色の光に照らされて、
水瀬くんの耳についているピアスが光った。
園田 類
園田 類
あぁ、光が好きそうな曲だな
水瀬 光
水瀬 光
でしょ? 気に入った?
園田 類
園田 類
まぁ、悪くない
野間しおん
野間しおん
(そ、園田くんが話してる……!)
私の存在に気付かずに、和やかに会話する二人。
その光景に、私はただただ驚くことしか出来なかった。
クラスメイトとはいえ、園田くんが話しているところなんてほとんど見たことがない。
彼が話すのは、授業で先生に当てられたときくらい。
誰が話しかけても視線すら向けてくれなくて、基本無表情で、
『アンドロイド』みたいだと有名なのだ。
最近は人間そっくりのアンドロイドが、お店での接客や介護現場などで活躍することが増えているらしい。
私はまだ本物のアンドロイドをテレビでしか見たことがないけど、
園田くんはとっても整った顔をしているので、しっくりくる呼び名だと思っていた。
野間しおん
野間しおん
(そんな園田くんが……! 人と話してる……!)
感動のあまり叫びそうになるのを堪えるために、あわてて口を塞ぐ。
イヤフォンを外した園田くんがまっすぐに水瀬くんを見る。
水瀬 光
水瀬 光
どうだった? 僕は感動したんだけど
園田 類
園田 類
本当に光は、アンドロイドらしくないよな
園田くんの言葉に、時が止まった。
アンドロイド……?
水瀬くんが……?
水瀬 光
水瀬 光
えぇ? そうかな?
園田 類
園田 類
普通のアンドロイドは曲なんて聞かないだろ。ましてや感動とか
水瀬 光
水瀬 光
聞く子は聞くと思うけどね
でも類と一緒にいると色んなことがアップデートできるから、
僕は他のアンドロイドに比べると人間っぽいのかも
園田 類
園田 類
俺と一緒にいても何にもないだろ
水瀬 光
水瀬 光
そんなことないよ? 類は意外とわかりやすいから
水瀬 光
水瀬 光
あ、ほら、今だってちょっと嬉しかったでしょ? 目が笑ってる
園田 類
園田 類
うるさい
野間しおん
野間しおん
(え、え、まって……? ほ、ほんとに水瀬くんはアンドロイドなの……?)
野間しおん
野間しおん
(アンドロイドって……こんな身近にいるものなの……?)
ハンカチを取りに来たことも忘れて、
私はその場に立ち尽くすことしか出来なかった。

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