第18話

近付けない距離
777
2022/10/09 23:00
野間しおん
野間しおん
(一人でお昼食べるのって、もうどれくらいぶりなんだろ)
裏庭にある、一本の大木の下。
すでに散ってしまって、葉っぱの影はほとんどない。
そこで、私は一人サンドイッチを頬張っていた。

お昼のチャイムが鳴ってすぐ、私は逃げるようにここに来てしまった。
きっと水瀬くんと園田くんは、いつもの場所で楽しそうにご飯を食べてるはずだ。

食べていたサンドイッチから口を離して、空を見上げた。
広がっているのは、雲一つない快晴。
清々しいほど青い空に、私は目を細めた。

もうきっと、私はあの輪の中に入れない。
一緒にご飯を食べることも出来ない。
だって、水瀬くんが帰ってきたんだもん。私はきっと用済みだ。
野間しおん
野間しおん
パンのプレゼン、もう少しで成功しそうだったんだけどなぁ
園田くんは前よりずっとパンを食べるようになった。
相変わらず嫌な顔はするけど、差し出したものは残さず食べてくれるようになった。
だから、パンを好きになってくれるまで、もう少しだと思ってたのに。

憎いくらいの快晴は、私をあざ笑っているように見えた。




静かな美術室。
私は描きかけのキャンバスに向き合いながら、筆を持った手をだらりと下ろした。
二人と話さなくなってから、筆の進みが遅くなった気がする。

園田くんの前で描いた時はあんなに筆が進んでたのに。
野間しおん
野間しおん
(ここでいろんな園田くんを知ったなぁ)
パンの名前を覚えてたこと。
国語の読み取り問題が苦手なこと。
ふとした瞬間に面白いことを言うこと。

園田くんの、家族のこと。
いろんな話をしてくれた。私が一方的に話しかけるだけの関係だったのに。
園田くんからも話してくれるようになって、大切な過去の話もしてくれた。
いろんな園田くんを知れて、本当に嬉しかったのに。

色んなことを思い出していると、突然ノックの音が響いた。
水瀬 光
水瀬 光
しおんちゃん
扉を開けたのは、水瀬くんだった。
思わず、筆を握っている手に力が入る。
水瀬 光
水瀬 光
ごめんね急に。しおんちゃんの様子が気になっちゃって
扉の位置から一歩も動かないのは、きっと水瀬くんなりの優しさ。
水瀬 光
水瀬 光
元気なさそうに見えちゃって
野間しおん
野間しおん
……そんなことないよ
水瀬 光
水瀬 光
お昼も、どこか行ってるの?
野間しおん
野間しおん
うん、ちょっと用事があって
水瀬 光
水瀬 光
そっか。無理してない?
野間しおん
野間しおん
してないよ、大丈夫
水瀬 光
水瀬 光
……うん、そっか、ならよかった
自分の声がいつもよりもずっと冷たいことなんて分かってる。
顔を見なくても、水瀬くんが困ってることなんて分かってる。

だって、こんなの、子供の癇癪みたいなものだもん。
水瀬 光
水瀬 光
ごめんね、邪魔して。……部活、頑張って
美術室に入らないまま、水瀬くんは扉を閉めて帰っていった。
野間しおん
野間しおん
(……水瀬くんは、やっぱり大人なんだよなぁ……)
私のテリトリーには入ってこない、絶妙な距離感。
園田くんもそれが心地よかったのかもしれない。
私にはできない、大人な距離感。

やっぱり園田くんにとって、水瀬くんが絶対なんだと思う。
私と話してくれるのは、水瀬くんが私を信頼してくれてたから。

私一人じゃ、園田くんとあんなに話せるような関係にならなかった。
それが、悔しいと思ってしまう。
野間しおん
野間しおん
……好きだったんだなぁ、私
大きなきっかけなんてなかった。
だけど、気づいてしまった。

私は、園田くんに恋をしてる。
そして、水瀬くんに嫉妬してる。
だから今、子どもみたいなわがままで、水瀬くんを避けてしまっている。

プリ小説オーディオドラマ