休日の午後、人でごった返すショッピングセンター。
その中に入っている映画館のロビーで、私は号泣していた。
水瀬くんに借りたハンカチで涙を拭く。
拭いても拭いてもあふれてきて、涙が止まらない。
そんな私を園田くんが冷たい目で見てくる……。
園田くんに向かって叫んだところで、ようやく感情が落ち着いた。
今日、私たちは三人で映画を見に来ていた。
私が好きな曲を題材にした映画。
水瀬くんも好きで、園田くんも勧められて聞いていた曲。
三人とも知っていたので、迷うことなくこの映画に決まった。
呆れながらも背中をさすってくれる園田くん。
この前言ってくれたように、
園田くんの中で私は水瀬くんと同じくらいの立ち位置にいるらしい。
最初に会ったころの警戒さが嘘のよう。
突然まっすぐに褒められ、声が裏返ってしまう。
背中を撫でてくれる園田くんは、こちらを見ていない。
だけど、真剣な目で何かを考えていた。
止まることを知らない園田くんからの褒め言葉。
じわじわと頬が熱く感じるのは、きっと泣いたからじゃない。
水瀬くんにそう言われ、私はとっさに借りたハンカチで顔を覆った。
嬉しくないわけない。
だって、ふだんは「人間は全員敵」だというように威嚇している園田くんから褒められたんだもん。
水瀬くんから見ても、仲いいって思われるくらいなんだもん。
好きな人に褒められて、嬉しくない人なんているのかな。
軽口の応酬をしているうちに、私は涙が引っ込んでいくのを感じていた。
まだ少しだけ頬は熱い気がするけど。
このあとどうしようか、と園田くんと話していると、
いつのまにか水瀬くんが立ち止まって、私たちを後ろから見ていた。
私たちに向けられているのは慈愛に満ちた、愛おしいものを見つめるような優しい顔。
そう言った水瀬くんに、なぜか胸がズキンと痛んだ。
恥ずかしげもなく答える園田くんに、水瀬くんが嬉しそうに笑った。
だけど、私は何も言えなかった。
私は水瀬くんに対して醜い感情を抱いていた。
嫉妬して、二人を避けて、心配をかけた。
今だって、その感情がすべて消えたわけじゃない。
そんな私が、「私も」なんて言えないよ。
でも、ちゃんと言えばよかったって、この先ずっと後悔し続けることを
この時の私はまだ知らなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。