第21話

三人の休日
772
2022/10/30 23:00
休日の午後、人でごった返すショッピングセンター。
その中に入っている映画館のロビーで、私は号泣していた。
野間しおん
野間しおん
あぁ……うぅ……
園田 類
園田 類
泣きすぎ
水瀬 光
水瀬 光
あははっ、ほらしおんちゃん、ハンカチ
野間しおん
野間しおん
ありがとう……
水瀬くんに借りたハンカチで涙を拭く。
拭いても拭いてもあふれてきて、涙が止まらない。
そんな私を園田くんが冷たい目で見てくる……。
園田 類
園田 類
なんでそんな……そこまで感動する内容だった?
野間しおん
野間しおん
もう超感動だよ! 悲しいでしょ!
お互い好きって分かってるのに一緒に居れないなんて!
野間しおん
野間しおん
なんであそこで二人とも一緒になろうとしなかったのぉ……
野間しおん
野間しおん
でもでも、デートシーンは超幸せそうで見てるこっちまで幸せになったよね!?
それなのになんで! なんでぇ……
園田 類
園田 類
情緒不安定か……
水瀬 光
水瀬 光
でも、あれは良かったよね。曲へのオマージュもしっかり感じられて
野間しおん
野間しおん
うん……うぅっ、歌詞に沿ってたし、ぐずッ……新しく気付くこともあったし
園田 類
園田 類
泣くか喋るかどっちかにして
野間しおん
野間しおん
鬼!
園田くんに向かって叫んだところで、ようやく感情が落ち着いた。
今日、私たちは三人で映画を見に来ていた。
私が好きな曲を題材にした映画。
水瀬くんも好きで、園田くんも勧められて聞いていた曲。
三人とも知っていたので、迷うことなくこの映画に決まった。
野間しおん
野間しおん
ありがとうね、誘ってくれて
水瀬 光
水瀬 光
ううん、僕も三人で来れて嬉しかったよ。ね、類
園田 類
園田 類
うん
野間しおん
野間しおん
うれじぃ~……
園田 類
園田 類
うわ、また泣くのかよ
呆れながらも背中をさすってくれる園田くん。
この前言ってくれたように、
園田くんの中で私は水瀬くんと同じくらいの立ち位置にいるらしい。
最初に会ったころの警戒さが嘘のよう。
園田 類
園田 類
しおんはほんと感情豊かだな
野間しおん
野間しおん
んぇ?
園田 類
園田 類
他人の話にそんな入り込めるか? 普通。俺は無理
水瀬 光
水瀬 光
完全に切り離して見るもんね、類は
園田 類
園田 類
うん。だって、その立場にならなきゃわからないだろ。
だけど、しおんはちゃんとわかるんだな
野間しおん
野間しおん
わかるっていうか……想像しちゃうのかも、私がその人の立場になったらって
園田 類
園田 類
それがすごいよな
野間しおん
野間しおん
えぇっ……!?
突然まっすぐに褒められ、声が裏返ってしまう。
背中を撫でてくれる園田くんは、こちらを見ていない。
だけど、真剣な目で何かを考えていた。
園田 類
園田 類
光も感動したんだろ?
水瀬 光
水瀬 光
したねぇ
園田 類
園田 類
でも泣いてないもんな
水瀬 光
水瀬 光
感動はするけど、僕も類と同じように自分とは切り離して見てるのかも
園田 類
園田 類
多分、基本そうなんだよ。だって他人だし。
なのに、しおんはまるで自分のことのように感じるんだろ?
園田 類
園田 類
それってすごいことだよな……
野間しおん
野間しおん
……あ、ありがとう……?
園田 類
園田 類
国語の読み取り問題が得意なのもそういうことなんだろうな。
相手の立場になって考えられるから
野間しおん
野間しおん
そ、園田くん……
園田 類
園田 類
でも押し付けてくるわけでもないし、しおんは本当にすごいな。
尊敬するよ
野間しおん
野間しおん
尊敬!? 私に!? それはちょっと……
ありがとうございます……?
園田 類
園田 類
なにそれ、否定する流れだったじゃん
野間しおん
野間しおん
せっかく褒めてくれたのに否定するのはちょっとなって……
園田 類
園田 類
そういうところもしおんらしいな
野間しおん
野間しおん
あぇ……
止まることを知らない園田くんからの褒め言葉。
じわじわと頬が熱く感じるのは、きっと泣いたからじゃない。
水瀬 光
水瀬 光
ふふっ、二人とも仲いいねぇ
水瀬くんにそう言われ、私はとっさに借りたハンカチで顔を覆った。
嬉しくないわけない。
だって、ふだんは「人間は全員敵」だというように威嚇している園田くんから褒められたんだもん。
水瀬くんから見ても、仲いいって思われるくらいなんだもん。
好きな人に褒められて、嬉しくない人なんているのかな。
園田 類
園田 類
また泣いてんの?
野間しおん
野間しおん
泣いてないっ! そんな泣き虫じゃない!
園田 類
園田 類
さんざん号泣しといてどの口が……
野間しおん
野間しおん
さっき褒めてくれてたじゃん!
水瀬 光
水瀬 光
あははっ
軽口の応酬をしているうちに、私は涙が引っ込んでいくのを感じていた。
まだ少しだけ頬は熱い気がするけど。

このあとどうしようか、と園田くんと話していると、
いつのまにか水瀬くんが立ち止まって、私たちを後ろから見ていた。
野間しおん
野間しおん
水瀬くん? どうしたの?
園田 類
園田 類
疲れたのか?
水瀬 光
水瀬 光
ねぇ、二人とも
私たちに向けられているのは慈愛に満ちた、愛おしいものを見つめるような優しい顔。
水瀬 光
水瀬 光
僕はこの先も、ずっと二人を愛してるよ
そう言った水瀬くんに、なぜか胸がズキンと痛んだ。
園田 類
園田 類
何、急に……俺もそうだよ
水瀬 光
水瀬 光
へへ、おそろいだね
恥ずかしげもなく答える園田くんに、水瀬くんが嬉しそうに笑った。
だけど、私は何も言えなかった。

私は水瀬くんに対して醜い感情を抱いていた。
嫉妬して、二人を避けて、心配をかけた。
今だって、その感情がすべて消えたわけじゃない。
そんな私が、「私も」なんて言えないよ。



でも、ちゃんと言えばよかったって、この先ずっと後悔し続けることを
この時の私はまだ知らなかった。

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