僕は猫が好きだ。
しなやかで、高潔で、人に媚びない。
なにより可愛らしい。
でも猫みたいな人間って付き合いづらいよね。
気まぐれで、気分屋で、何するかわからない。
みんな僕を猫みたいっていうから、
多分みんなも僕のことをそう思ってるんでしょ?
でも、僕よりもっとタチの悪い猫みたいな子を
僕は知ってる。
昨日マンションに来てたのが僕じゃなかったら
どうしたんだ.....
あなたは多分前世猫だった。
今だって一人暮らしの家に置くには大きすぎるソファの端っこに薄っぺらいTシャツの中で体育座りをして縮こまっている姿は、まるっきり猫だ。
伸ばしている、というより切りに行っていない雰囲気なのに、背中まで伸びるクセ毛はなぜかツヤがある。
インスタント食品ばかりが並べられたキッチンから柚子茶を見つけ出したので、
あったかい柚子茶を持ってあなたの横に座る。
そう言うとあなたは隣に座る僕の膝に頭を乗せてくる。
膝の上で気持ち良さそうに目を閉じているあなたをの髪から覗いた耳を見ると、
両耳に1つずつあったはずのピアスホールが、
左耳だけ2つになっている。
もう綺麗に安定している2つ目のピアスホールを指でなぞる。
寝室から戻って来たあなたの手にあったのは、小さな黒い箱。
なんか、指輪の交換みたい。
自分勝手によくわかんない理由付けられて、
勝手にピアス開けてたことにイラついたはずなのに、
自慢げに髪を左耳にかけるあなたがやっぱりかわいくて、
柄にもないことしてもいい気分になる。
僕も大概気まぐれだから。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!