前の話
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ふわふわとしたまどろみの中で、一人の少女が歩いていた。
「…大丈夫、大丈夫」
夢の中でさえこの言葉が口をついて出る自分に半ば呆れながら、ゆっくりと白に塗りたくられた場所で歩を進める。
ーもう、大丈夫だよ。
いつの日か誰かにかけられた言葉が、ふいに脳内で再生される。
何度も思い出したその言葉は、自分の言葉とは違って心の中が暖かくなる。
これ以上ない幸せで胸がいっぱいになった少女は、まどろみの中から抜け出す為に自分の頬を軽く叩いた。
ここから出れば、また忙しい現実が待っているだろう。
そう考えて、手の動きを一度止める。
(…でも)
━━そのかわり、まどろみの暖かさが私を癒してくれる。
「…もう、大丈夫ね」
そう呟いた言葉が空白に吸い込まれていくのと同時に、私の意識は現実に戻った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。