伊乃里くんと初めて会ったときのことは、忘れもしない。
私が5歳、伊乃里くんが6歳のとき。
確かに美少年だったけど、なんだか怖かった。
会った瞬間思った。
好きになれない。
伊乃里くんは、真逆だったようだけど。
幼い私でも伊乃里くんの好意に気づいていたから、
わかりやすかったのだと思う。
告白されてから、こんなことも言ってきたし。
それならまだ良かった。
お母さんが言うなら、この人と結婚しても良かったんだ。
このときまでは。
すぅ……。
私まだ6歳だよ!?
純粋な6歳だよ!?
お母さんたちの見ていないところで、私の体を
触ったり……キスしてきたりした。
唇にだけじゃなくてね。
やめてって言っても、通じなかった。
正直、今になって思うと、そんな7歳いていいものかと
思うけれど。
だんだん怖くなって、伊乃里くんを避ける日々が続いた。
私は悪くない。
でもある日、伊乃里くんの限界が来た。
私は7歳くらいだったかな。
“時音を傷つけていいのも”
何が8歳児をこんなふうにしたのかな?
あ、変なところまでは行っていないよ?
まだそんな知識なかったし。
ただ……服を脱がされ体中をキスされるなんて体験、どれくらいの7歳が経験するのよ。
時々噛まれて痛くて、泣き声しか出せなくて、なぜか誰も来てくれなくて。
そのくらいだったなぁ……。
自分を隠すようになったのは。
まおと出会ったのは。
伊乃里くんが怖くて怖くて、ついにお母さんに言った。
『伊乃里くんがこんなことするの』
って。
なんて言われたと思う?
信じてくれなかった。
どうしても身の危険を感じた私は、小学校で彼氏を作った。
パタリと、伊乃里くんは来なくなった。
すぐ別れたけどね。
中学1年生。
大好きな彼氏ができた。
半年で裏切られたけどね。
中学2年生。
……亮くんと出会った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!