夏休みに入ってすぐ、あなたは、俺に映画を一緒に見に行ってくれるよう、頼んできた。
もちろん、俺はすぐさまOKしたけど、あなたの驚き様に、少し焦りながら、
自分の気持ちをちゃんとはっきり伝えられない現実に劣等感を感じていた。
でも、やっぱり、あなたと一緒に映画を見に来られるなんて嬉しくて、俺はいつになく機嫌が良かった。
こういうとき、あなたはいつも、大丈夫って返事するんだよなぁ。
ちょっとくらい、彼氏ヅラさせてほしいなんて、口が裂けても言えねーけど。
実際、付き合っているわけじゃねーし。
俺は、オレンジジュースと、コーヒーを店員に頼んだ。
てゆうか、ここは普通、男がおごるもんだろ。
俺は、あなたの言葉を聞き流し、手を掴みながら、劇場へ向かった。
手を掴んで嫌がられないかとか、ウザがられてないかとか、そんな考えがよぎったが、俺は、自分の思うままに行動していた。
あなたの優しさにうぬぼれているだけだなんて、わかってる。
いつもだったら、拒否してくるようなことだって、知ってる。
でも、今は、今だけは、嬉しい反面、怖かったけど、それにすがりたかった。
そう思っている間に、映画は始まった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!