夏休みまで、あなたはずっと俺と一緒に帰ることを頼んできた。
でも、それだけしか頼まなかった。
そこで、ある日、俺はあなたに聞いた。
あなたの顔はちゃんとは見られなかったけど、哀しげに見えた気がした。でも、俺はそこには触れずに、ただ、
とだけ言った。
気にならないと言ったら嘘になる。
だけど、あなたが俺に、大して何も頼んでこないことに、きっと、嫉妬していたんだ。
毎日一緒に帰るせいで、友達や、色んな奴から付き合っているのか聞かれたが、俺たちが否定したので、噂はそこまで広まることはなかった。
そうだ、俺は否定したんだ。
好きではないと。
確か、あなたの入っている吹部は、練習量がかなり多いはずだ。友達が、年に数える程度しか休みがないことを愚痴っていたのを、俺はふと思い出した。
あなたは、笑っていた。
でも、その笑顔はわかりやすいくらい、引きつっていた。
俺は、あなたを見なかった。
いや、見られなかった。
頼むから、そんな顔して、平気なふりするなよ。もっと泣けばいいだろ。喚けばいいだろ。
いつのまにか時間が経ち、あなたの家に着いていた。
あなたはそう言った。
そうだ、秘密なんだ。
お互いの気持ちすら、秘密なんだ。
秘密の友達だから。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。