調査員A side
夕食のとき、総幹事長が少し遅れてきた。
おそらくスマホを忘れたということは事実だろうが、お手洗いに寄ったというのは嘘だ。
帰ってきた総幹事長からは少量の香水の匂いがして、腕にロープのような跡がついていた。
それに、総幹事長は香水をつけない。
恨み…
学園調査委員会に必要なのは分析力や観察力など色々あるが、最終的にはやっぱり勘だ。
俺たちの総幹事長が傷つけられて帰ってきたとなれば応戦する。
今回は3人だけだが、一度総幹事長が長期戦になった際に頭から血を流して帰ってきたときには総出で抹殺した。
世界一の魔法師が犯人を捕まえない理由。
1つ目は庇った、許した場合。
それ以外はない。
逃げられても総幹事長は捕まえられるだろう。
総幹事長を傷つけた人を許さない。
だが、俺たちが従うべきは総幹事長。
総幹事長が許したのなら俺たちも許さなくてはならない。
総幹事長が絶対。
そのおかげで苦労したこともあるが、今は天職だ。
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神妙な面持ちで向かったから何かあったと思ったんだが…
俺を呼びに来ず、外も騒ぎになっていないということは自分で解決できたのだろう。
昨年の誕生日はデスク上にお菓子が山積みにされていた。
それのみならず、引き出しの中、そしていつの間にか鞄の中までプレゼントで埋め尽くされていた。
うちの秘書はちょっと怖い。
アイスを受け取って袋を開ける。
これうまいな…
まだなにか言いたそうな顔をしているな…
アイスを食べ終え、どこから持ってきたのかチェスがテーブルに置かれる。
正直に言うなら、俺は今までチェスで負けたことはない。
だが、今回は…
チェスは黒と白に分かれている。
白が先攻だ。
ナイトは騎士を示す。(♞♘←こんな感じ)
言葉にはしないが、白熱した試合になる。
お互いに苦戦しながら駒を動かす。
特定の位置のポーンを動かしたいが、クイーンがあって動かせない。
こんなに楽しかったのはいつぶりだろうか。
向かい合って座っているので手を伸ばせば触れられる。
いつだかにしたように、頭を撫でる。
熱中しすぎたからか身体が暑い。
浴衣の襟を少しはだけさせる。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!