ガチャ…
扉の開いた音で目を覚ます。
確か帰ってきたのはお昼で…昼寝をしたら夕飯の支度を…
今何時だ?
床に寝そべっていた俺に目線を合わせて会話をしてくれる。
夕飯の当番は俺なのに…
そう言っておでこに優しくキスをされる。
お腹を撫でて名前で呼びかける。
もうすぐ会える。
もうすぐ、。
見えないが、子供の成長を実感する。
どんな子になるのだろう。
俺みたいな気分屋にはなってほしくないが、気分屋だって愛す。
デイヴィスみたいな博識になってほしいが、少し抜けていたって愛す。
迎え入れる準備は整ってるぞ。
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あと一ヶ月、ともなるとそろそろ本格的に会うことは難しくなる。
最後にひと目だけでもと思い、意地を通して会わせてもらった。
そうして俺は無事、出産を迎えることとなった。
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双子は帝王切開で出産することが多いため、必然的に生まれる日時が予め決められることになる。
誕生日を子ども自身で決められないのは何かと申し訳ないが、リスクを減らすためだ。
そう言って紅茶に手を伸ばした。
取っ手に指を滑り込ませて上に上げたときだった。
カップの割れる音が聞こえる。
それとともに、お腹に激痛が走った。
陣痛が始まってしまったら産むしかない。
デイヴィスに運転を頼み、病院まで連れて行ってもらう。
前もって結界を張っておくべきだった。
そんなことを頭の片隅で考えているとさらに激痛が走る。
病院に着くと同時にストレッチャーで運ばれる。
帝王切開の予定だったが、俺も子どもも順調に育っているため普通分娩で産むことになったらしい。
ーーー
ーー
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クルーウェルside
こんなことになるとは思いもしなかった。
あなたの体調にこそ変化はあったが、俺が動くことで日常生活に支障は出さなかったし、あなた自身も幾分楽に過ごせた。
分娩室の前で手を握りしめる。
どうか無事で。
何があるかわからない出産で、こんなにも自分に余裕がなくなるとは思わなかった。
危うい状態ってなんなんだ。
もっと詳しく説明してくれ。
だが、中に入ると理由がわかった。
大きな声を上げて痛みに耐える人が多い中、あなたは疲れ切っていた。
目も虚ろ虚ろにしか開いていなく、下手をしたらそのままいなくなってしまうんじゃないかと思わせた。
手を握りしめるときちんと返ってくる。
その時、一つ声が増えた。
数分後、無事に女の子も生まれた。
だが、
その言葉を言い残して、あなたは気を失った。
そうして、無事に子どもは生まれた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!