杏奈「ちょ、何これ!?」
杏奈が駆け寄ると、例の1年の不良と、それに相反する不良のグループが抗争をしていた。しかし、1人なのにも関わらず、集団の厳つい不良グループに一切苦戦せずに一方的に1年は不良達を殴りまくって無双していた。終わる頃にはグループは逃げ出し、彼の拳からは返り血が滴る。
杏奈「つ、つよ....」
不良「......あ?てめぇこないだの3年生か」
杏奈「え、あ、いや...」
不良に気付かれ、たじろぐ杏奈。不良は構わずに鋭い目付きでメンチを切っている。
杏奈「き、君....もしかして、夏目 衛くん?」
不良「.....だったらどうしたってんだよ?」
杏奈「皆怖がってるから...喧嘩は辞めようよ、ね?」
衛「向こうが喧嘩ふっかけて来ただけだよ、アンタには関係ねえ、失せろ」
杏奈「っ...」
さすがに怖くなったのか、杏奈はゆっくりと下がった後、ダッシュで逃げ出した。
衛「ふん...」
杏奈「はぁ.....はぁ....いくら年下とはいえ。やっぱ不良って怖いなぁ...」
杏奈は走りすぎて息を切らしながら衛の事を考えた、いや、正確には頭から離れなかった。逃げる際、彼の顔が視界から外れる直前、一瞬だが、何処か寂しそうな目をしていたような気がしたからだ。暫くして落ち着いた杏奈はゆっくりと深呼吸をして来た道を戻る。
杏奈「.....(やっぱり、ほっとけないよ)」
知り合いにしろ、赤の他人にしろ、困ったり悩んだりしているのを見ると放っておけない彼女の性分が、気がつけば己の脚を動かしていた。
杏奈「.....え」
衛「.......」
杏奈が衛のいた場所を戻ると、そこには傷だらけで縛られている衛の姿があった。更に周りには先程抗争で破れた不良グループの集団が衛に向かって悪そうな笑みを飛ばしていた。
リーダー「へへ、完全に油断してたな、ざまぁみろ、夏目。」
杏奈「衛くん!」
子分1「あ?誰だてめぇは?」
子分2「あ、さっきの女子高生じゃねぇか!」
杏奈「あ、しまった...つい声が...」
リーダー「へぇ、中々いい顔してんじゃねーかよ?ちょっとこっち来いよ、ほら!」
杏奈「っ!?」
不良グループのリーダーらしき男に腕を強く捕まれて、杏奈は青ざめて震えるが、彼女の身体が反射的にリーダーに掴まれた腕を思い切り振るうと、リーダーは壁に衝突し、呆気なく白い目を向いて気絶。
子分1「.....は?」
子分2「....ま、マジかよ、女の癖になんてパワーだよ....。」
杏奈「.....まだやる?」
杏奈に睨まれ、リーダーを引きずりながら子分2人は逃走した。そして彼女は衛の身を案じて彼の傍に寄り添い、肌の体温を確かめた。
杏奈「良かった...まだ生きてる...」
衛「....う、うぅ...」
苦しそうに声を絞り出しながら衛はゆっくりと目を開けた。その瞬間、彼は驚いた様子で目を細くして、立ち上がって杏奈から距離を置いた。
衛「てめ...なんでいやがる...!?」
杏奈「怪我は無さそうで良かった....あの不良達に絡まれてたからさ...」
衛「助けてくれなんて頼んでねぇし...」
杏奈「そりゃ気絶してたからね」
衛「...」
杏奈「ねぇ.....なんで不良なんかになっちゃったの?」
衛「......ストレートに聞くなよ、本当変なやつだな....周りの奴らは誰も勝手にビビって近寄らねえし、まあ....だが、逆にスっとするなそれ。」
杏奈「そうかな?」
衛「.....俺...ウチが父親しかいなくてさ、親父は仕事で忙しいからいつも8歳の妹と過ごす時間が多いんだ。掃除とか洗濯とか料理とかで勉強したり友達作りとかさ、学校の事全然出来ないし...仕舞いにはクラスの奴らには疎ましい目で見られて孤立。笑っちまうだろ?」
杏奈「そうだったんだ....大変そうだね」
衛「元々の不器用に拍車がかかってよ、今みたいに立派な不良だ....オマケにさ、なんか右腕に変な模様が浮き出てきて、まるで刺青じゃねぇかよ..」
杏奈「え!?」
衛が制服の袖を捲って見せると、青緑色に光るレイジングの紋章が浮き出ていた。
杏奈「君、レイジング使いだったの!?」
衛「....れい...なんだって?知らねえよ、最近いつの間にか出来てたしよ.....ちょっと見てくれや」
衛が杏奈にそういうと、枯れた花に向かって人差し指を向けると、そこから光線のような物が出てきて枯れた花に当たると、花がどんどん元気を取り戻していった。
杏奈「おお!凄い!回復出来ちゃうんだ!」
衛「まあな、実は俺、植物好きなんだ...だ、誰にも言うなよ?」
衛は顔を赤くして杏奈に言う。杏奈はくすくす笑いながらもわかったよと承諾した。
杏奈「とゆうかさ、私達、めちゃくちゃ話してるじゃん...もう友達じゃん!♪」
衛「あ.....」
杏奈「今日はウチに止まらない?」
衛「あ?いや何言ってんだよバカか!女子高生が男を自分家に誘うなんて...」
杏奈「あー、大丈夫、デュナミスがあるから!」
衛「....へ?」
こうして半ば無理やり杏奈に白石宅に連れてこられた衛だが、顔は困惑していた。父の健人と、母の美里にデュナミスに案内されていく。
衛「親父がなんていうかなあ」
美里「あー、衛くんのお父さんには連絡したからね!あっさり許してくれたわ!」
衛「.....親父め」
健人「話が変わるが、君たちレイジング使いにはそれぞれ属性がある」
杏奈「属性?」
健人「ザガロくんは炎を得意とするからFIREtype、卓郎君はICEtype、そして衛君はPLANTtypeだな!」
衛「ぷらんと.....って植物だよな??」
卓郎「もしかして植物だから命を与えるのが得意って事ですか??」
健人「ご名答!PLANTtypeは回復が得意なんだ」
ザガロ「炎か...強そうだな」
衛「この力で...妹と親父を守れるのかな...」
杏奈「きっとできるよ!衛くんなら!」
衛「.....お、おう」
美里「衛くん、人は1人じゃ生きていけない、だから、頼れる人をたくさん作るのよ?」
衛「はい!」
その頃.....
美琴「.......この世界は...荒んでいる...」
マリエイヌ「......」
とある塔の頂で、美琴とマリエイヌが悲しそうな表情で一面に広がる海を眺めていた。
to be the continued
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。