あなたの泣き声だけが部屋に響く
俺の目の前で泣くあなたになんて声をかけてあげればいいのかわからない。
あなたと凱斗の問題でもある。
俺が首を突っ込んでもいいことなのか。
こちらを振り向いて
涙を袖で拭いながらそう言った。
でも、あなたが謝ることは無い。
俺があの時、一緒についていってればこんなことにはならなかったのに…
俺は首を横に振ってあなたを抱きしめた
あなたは俺の腕の中で首を横に振った
今、あなたの唇に凱斗の感触が残っていると思うと
最悪だとは思う。
だけどあれは避けられるものではなかった。
言ってしまえば………
「仕方の無いキス」だったんだ。
俺はそんな風に思いたくはない。
あなたが俺以外の男とキスをしたことは事実
俺はあなたの背中を優しく撫でた
しばらくしてあなたは泣き止み、落ち着いてきた
あなたはコクリと頷いた
まだ目が少し腫れている
あれは凱斗が怒りに任せて放った言葉だろう。
今まで隠して隠して隠し通してきた恋心が一気に溢れ出したんだ。
無理もない。
凱斗も泣いていた…
凱斗のあなたへの想いはそれほどのものだったんだと改めて思った。
でも、キスをしたことを許した訳でもない。
俺は無言であなたにキスをする
頬に手を添えて優しいキスを繰り返す
あなたの頬には涙の跡が残っていた
俺以外の男とキスをしてしまったことへの罪悪感…
凱斗を傷つけてしまったことへの責任…
たくさんの思いが詰まった涙だったのだ。
唇を離してあなたを見る
そう言って俺に抱きつくあなた。
もう一度ここに呼んで話した方が早い。
俺だって話したいことはまだまだあるんだ。
心配そうに上目遣いで聞いてくる。
その目に弱い俺は目を逸らしながら言う
ちょっとテンパったけどあなたにはバレてない
あなたは別室に行き、しばらくして戻ってきた
今にも泣きそうな顔で聞いてくる。
俺だって出来るならいたいけど…
これは、俺が首を突っ込んでは行けないことだと思うし。
パァっと一気に明るくなるあなたの顔。
その後、チャイムが鳴り凱斗が再び俺の家にやってきた
あなたには聞こえないくらいの小さな声で凱斗の耳元でそう呟いた
そんな曖昧な返事に不安を抱きながらも、扉の外で話を聞く
マサイのことを色々言われて、つい怒ってしまいその勢いで言ってしまった言葉に後悔が募る
目を合わせてくれない凱斗の横顔はどこが寂しそうだった
怒ってない訳では無いけど、なぜか凱斗を責めようとは思わなかったし怒ろうとも思わなかった。
凱斗は一瞬だけこちらを見て目を見開いたが
すぐに顔を背けてしまった
申し訳なさそうに謝る凱斗
私がそう言った瞬間、凱斗と目が合った
いつもより真剣な顔いつもより低い声
全部が全部、凱斗が凱斗じゃないみたい。
凱斗は唇をグッと噛み締め、俯いた
下を向きながらそう呟いた
そっか…
凱斗は何も納得出来てない状態だったんだ。
でも、ちょっと待って?
何かがおかしいよ。
凱斗は口を噤んでしまった
嘘…知り合いだったの?
それは、知らなかったなー…。
少しだけ顔を歪ませた凱斗の口からは『なんだそれ。どーゆー意味だよ。』と言いたげだった。
危ない目にはあった…でも私がマサイを思う気持ちとそれは、話が別だ。
うん…。
私は何があってもマサイを好きでいられる自信がある。
私は凱斗のこの想いに応えることが出来ないけど、それでも私と一緒にいたいと思ってくれて嬉しかった。
内心、もしもこのまま凱斗と話せなくなってしまったら…とか考えてたけど
やっぱり長年一緒にいるからこその思いがあった
凱斗はニコリと笑う
私は嬉しかった。
罪悪感と後悔でいっぱいいっぱいだったけど
凱斗が他の人と幸せになってくれたら
どれほど嬉しいか。
-『好きにならなきゃよかった』-
言われた時は、ショックだった。
1度失いかけた親友という関係…
でも再び、親友に…いや
それよりもっと上の存在になった
凱斗と私。
今まで以上に仲良くする必要はなくて
いつも通りに毎日を過ごす。
それが私たちが望む日常。
そう思った。
申し訳なさそうに謝る凱斗の手を握る
凱斗の手をブンブンと振り回しそう言った
凱斗は呆れ笑いをしていた
でもそんな時間が楽しかった。
さっきまでの気まずい空気が嘘のようだ。
ガチャリとドアが開く
あなたはさっきの泣きそうな表情とは真逆でとても笑顔でどこかスッキリした表情をしていた
俺は凱斗に拳を向ける
笑いながら言ってコツンと拳を合わせる
あなたは横でふふっと笑って見守っている
その後、色んな話をして凱斗俺らの家をあとにした
ふっと俺は笑う
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。