しばらくしてシルクがリビングへ戻ってきた
そう言って俺はあなたの頭をポンポンとする
そう言って笑顔で見送った
ソファに倒れ込むように座るあなたはため息混じりにそう言った
それはさ…モテモテだからなんだよな…うん
あなたがみんなに可愛いって思われるのは俺も嬉しいけど、さすがにモテすぎて不安だ
俺としては、授業中もついててやりたいくらいだけど、そこまでは出来ないから…
せめて登下校だけでも。
そう言いながら俺の胸へダイブしてきた
割とびっくりしたけど心地よかった
ふっと笑って頭を撫でる
急に大声を出すあなた
俺はビクッと肩を揺らした
肩を落としながら俺から離れる
パァっと明るくなるあなたの表情を見てふっと笑う
俺の腕をグイグイ引っ張るあなたはさっきの表情とは比べ物にならないくらい嬉しそうだ
寝室につくなり、あなたはカバンをゴソゴソとあさり、ノートと教科書と筆箱を出す
俺はそう言いながら、カチャッと眼鏡をかける
そう言ってせっせと宿題に取り掛かるあなた
俺は暇だから本でも読んで待ってるか
コチコチ……カキカキ…ペラッペラ…
時計の針が動く音とあなたのシャーペンの音
そして俺が本をめくる音が静かな部屋にそっと響く
数十ページ読み終えたところであなたをチラッと見る
真剣な顔でノートとにらめっこしている
すると、なにかひらめいたのか「あっ」と小さく言ってシャーペンを動かす
俺は再び本に目線を落とす
なぜだか少し物足りない
何が物足りないのかも分からないけど…
なんだろう。この感覚は…。
俺はまたチラッと…いやガッツリ見る。
あなたは気づかない。
ズキッ…
まただ。この感覚…。
一体なんだろう
小さくため息をついた
その小さなため息にあなたは気づいた
体調が悪いわけでも深刻な悩みがある訳でもない…
ただこの気持ちの正体が分からないから…
そう言ってあなたはまたノートに視線を移す
俺は本に集中しようと思ったけど
なぜかできない。
あなたのことが気が気でなかった。
勉強でわからない問題があるんじゃないかっていう不安…ではない。
自分でも理解できないこの気持ちに不安が募る
そう言いながらあなたは俺の元に駆け寄ってきた
あなたはリビングに戻るために俺の前をスタスタと歩く
俺もあなたのうしろを歩く
リビングに戻ってソファに腰掛ける
あなたは少し離れたイスに座って俺を呼ぶ
そう言いながら両手を広げるあなた
俺はソファから立ち上がってあなたの元へ向かう
向かってる途中にあなたはイスから立ち上がった
あなたの髪の毛から香るほのかな甘い匂いが
俺の気持ちを落ち着かせる
トクンッ__
俺の胸が鳴る。これだ。
俺が求めていたものは…
あなたとの触れ合い…
少しだけでいいから触れたかった。
あなたの肌に…温もりに…
その全てを包みたかった
今のこの気持ちに不安なんか1ミリもなくて
ただただ安心感でいっぱいだった
何となく、さっきの気持ちを打ち明けたくなった
そう言って背中に回している手に力を込める
あなたの言葉にさらに安心する。
この時間が好き。大好き。
あなたの言葉はいつも俺の心にスっと入ってきて不安を取り除いてくれる。
俺もあなたの不安を少しでも取り除けてるのかな
俺の腕の中でそう言う
そんなことを言われてしまったら
俺だってそうだ。
俺だって…あなたとしか恋はできない。
というか、あなたとしか恋をしたくない。
さっきから同じことを考えている俺とあなた。
ほんとに以心伝心と言う言葉がピッタリだ。
俺はあなたの頬に自分の頬をくっつける
あなたの体温が頬をつたって伝わってくる
あなたと俺は少しだけ体が離れた
あなたは俺の頬に手を当てて
ニコッと微笑んだ
俺もあなたの頬に手を当てた
その瞬間、俺はあなたの唇に自分の唇を重ねる
あなたの頬から熱が伝わる
お互い目を閉じているから表情はわからない
だから俺は今のこの幸せを噛み締めていたい
この先にどんな大きな壁が俺たちに立ち向かってきても必ず乗り越えてみせる
俺は唇を離した
鼻の先が触れ合うくらいの距離
俺はそっと目を閉じた
あなたの返事が怖かった。
もしも、拒絶されたら…。
考えたくもないことが頭の中に駆け巡る
俺は目を見開いた
まさかそんな答えが返ってくるとは思ってなかった
少しだけ目を伏せてそう言うあなたは
泣きそうだった。
コクリと頷くあなたの目から
一筋の涙が伝う。
俺はそれを拭うようにして頬に手を当てた
俺の肩に顔を埋めるあなた。
このままずっとこうしていたい…
そう思った
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。