ここは、超大型アミューズメント施設。
遊園地、映画館、プラネタリウム、ボウリング場からカラオケまで、とにかくなんでもありだ。
期間限定のイベント会場もあり、全てを遊び尽くすには何日あっても足りない。
私はこの施設内の一角にあるアイスクリームショップで働いている。
休日ということもあり、学生やカップル、子ども連れの家族で賑わうのは当たり前なのだが、今日は“特別”だった。
Zero PLANET ――通称『ゼロプラ』のメンバーが、撮影にやってきているらしい。
噂はすぐに拡散され、彼らをひと目見ようと、女子中高生を中心にファンが殺到している。
私も彼らを一度見てみたいけれど、ただでさえ忙しいアルバイトの持ち場を離れるわけにはいかない。
いつもの約二倍のペースで、アイスクリームが売れていく。
せっかくの機会を惜しいと思う気持ちはあるけれど、私は仕事に勤しむことにした。
***
約一時間後。
何人もの女の子たちが、残念そうな面持ちで、店の前を通り過ぎていく。
彼らの撮影場所が見つからない、トラブルがあったかも――そういう声がいくつも聞こえてくる。
芸能界のことはよく分からないけれど、きっといろいろ大変なのだろう。
そのせいか、客足が少し落ち着いてきている。
そんな矢先、スーツ姿の男性がひとり、店にやってきた。
にこやかに挨拶をしてすぐ、私は固まった。
彼の顔は青ざめ、額には汗をかいていたから。
今からアイスクリームを食べようという人には、とてもじゃないが見えない。
名刺を差し出され、戸惑いながらもそれを受け取った。
会社名や部署名はぱっと見てもどういうものか理解できないけれど、ほぼ間違いなく芸能関係者だ。
ぎょっとした。
こんな唐突なスカウトなんて、フィクションの世界の出来事だと思っていたから。
なぜ、私なのか。
未だ信じられず、私は確認の意を込めて自分自身を指さした。
深々と頭を下げられ、私は戸惑った。
正直、興味はある。
こんな夢みたいなこと、この先あるはずがない。
仕方ないが断ろうとしていると、近くで話を聞いていた店長が、「せっかくだから受けてみたら?」と背中を押してくれた。
いつも好奇心旺盛でおおらか店長は、にっこりとしてそう言った。
心配する私に、顔を上げた男性はぱっと輝く笑みを見せて、そう答えた。
ド素人が撮影に混ざって大丈夫なのだろうか。
不安と嬉しさで胸を上下させながら、私は男性についていくことになった。
***
自分ではなかなか手の届かない、憧れのブランドの服を着せてもらったかと思いきや、今度はヘアメイク。
その間に、私は先程の男性から企画の説明を受けた。
とにかく、彼ら七人それぞれが提案するデートシチュエーションに沿って、私は自然体でいればいい、ということらしい。
パンクしそうな頭を抱えながら準備を終えて、私はいよいよ、控え室にいるメンバーに紹介されることになった。
目の前には、あのゼロプラのメンバーがずらり。
オーラが眩しくてくらくらする、というのを初めて体験した。
男性の言葉に、最初に立ち上がったのは――。
彼は、北海道出身の十八歳で、年長者らしく落ち着いた雰囲気のある青年。
幼少期からダンスを習っていて、なんとアクロバットも得意らしい。
彼との撮影シチュエーションは、『リアル脱出ゲームデート』。
ふたり目は――。
彼は群馬県出身の十八歳で、元気で明るいムードメーカー。
動画で見たことがあるのだけれど、体操・バスケ・水泳・空手・競技トランポリンまで、いろんな運動ができて、体を動かすことが好きらしい。
彼との撮影シチュエーションは、『ゾンビから逃げ切るアトラクションデート』。
続いて、三人目――。
彼は兵庫県出身の十七歳で、ダンス歴は7年、しかもブレイクダンスで全国制覇をした経歴を持つというすごい人。
普段は温厚な癒やし系なのに、ダンスをすると別人のようにかっこいいというギャップがある。
彼との撮影シチュエーションは、『VRゲームデート』の予定、らしい……?
次は、四人目――。
彼は、大阪府出身の十八歳。
クールで人見知りなところがあるようで、ミステリアスな雰囲気と百八十センチという高身長も印象的。
俳優として活動するのが夢で、特技は絵を描くことなのだとか。
彼との撮影シチュエーションは、『プラネタリウムデート』。
そして、にこにこしている五人目は――。
彼は徳島県出身の十七歳で、マイペースかつ素朴な性格。
ケーキはワンホールでも食べきれるほど、甘いものが大好きとのこと。
彼との撮影シチュエーションは、『スイーツ巡りデート』。
今度は六人目――。
彼は、福岡県出身の十七歳で、料理やバスケットボールが得意。
犬の鳴き真似も隠れ特技らしく、SNSにはそんな一面もアップして、人気を得ている。
彼との撮影シチュエーションは、『ボウリングデート』。
いよいよ最後、七人目は――。
彼は福岡県出身の十六歳で、かわいい顔に反して男気があるというギャップが人気。
ミュージカル経験者という経歴があり、ジャズダンスも得意。
絶叫系が大好きで、遊園地ではローラーコースターしか乗らないと聞いていたら、やっぱり撮影はそうなるらしい。
――最初は、誰からだろう?
【次話以降から、好きなメンバーを選んで進んでください】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。