勇也さんとは、ゾンビから逃げ切るアトラクションに参加する。
順番待ちをしている間、お化け屋敷並みの悲鳴が、施設内から漏れ聞こえてきた。
朗らかに話しかけてくる彼に対し、私の顔からは血の気が引いている。
彼はけらけらと笑い、「それに、俺がちゃんと守るからね」と約束してくれた。
初対面なのに遠慮をさせない雰囲気は、さすがだ。
私も体の震えが止まり、ようやく笑えた。
***
転倒した時に備えて、両手足にはサポーターを装着し、私たちはいよいよスタートした。
ゾンビに遭遇した場合、走って逃げる他に、おもちゃの赤外線レーザーガンで攻撃することができる。
それを受けたゾンビは、少しの間動きが鈍ったり倒れたりするので、その隙に逃げる、というルールだ。
ペアのどちらかが、ゾンビに捕まった時点でゲームオーバー。
最後まで逃げ切れば、参加者の勝利。
本当は思いっきり走りたいだろうに、勇也さんは、私の手や腕を引っ張りながら先導してくれる。
片手でレーザーガンを持ち、的確にゾンビに当てながら、ぐいぐいと先に進んでいった。
カメラマンも、私たちに遅れずについてきている。
彼の運動神経は抜群で、私の手伝いなんて要らないんじゃないかと思えるほど。
ゾンビにも少しずつ慣れてきて、私はそんな勇也さんの姿を惚れ惚れと見つめていた。
でもやっぱり、油断は大敵で。
迷路のように入り組んでいる中をゆっくり歩いていると、待ち伏せていたように通路からゾンビが飛び出してきた。
私はとにかく、目を瞑 ったまま、手に持っていたレーザーガンを撃ちまくる。
まぐれだけれど、それは運良くゾンビに命中したようだった。
ゾンビが怯んでいる間に、勇也さんがまた私の手を引いて走り出す。
安全を確認できるところまで走ってくると、勇也さんは突然笑い始めた。
全力で頭を撫でられ、髪の毛がぐしゃぐしゃだ。
でも、そんなことよりも、少しは彼の役に立てたことが、私は嬉しい。
次は落ち着いて撃とう、と心に決め、私たちは再びゴール目指して歩き出した。
時折壁に現れるマップを頼りに進み、遂にゴールの扉が十メートルほど前に迫る。
あまりにもあっさりと終わりそうなことに、疑問を抱いた勇也さんが立ち止まる。
私もそれにつられて周囲を見渡すと、扉の前の天井が開き、黒い物体が吊されて降りてきた。
今までの比ではないその大きさと、顔がどこにあるのかすら分からないグロテスクなフォルム――つまり、ラスボスだ。
動きからして、中身は人間ではなく機械だが、非常に素早い。
二手に分かれて、挟み撃ちにする。
順調に相手を弱らせていたのだけれど、私が撃った後、そのまま後ろにつまずいて転んでしまった。
ボスは私目がけて、一気に距離を詰めてくる。
間に合わないかと思った瞬間、ボスは突如、勇也さんの方へと目標を変えた。
私を助けるために、長めに攻撃して気を引いてくれたらしい。
それでも、壁際まで追いつかれてしまった勇也さん。
どうするのかとハラハラしていたら、壁を蹴って宙返りをした。
ゾンビを飛び越し、その後ろへと着地する。
あまりにも華麗な身のこなしに、私は立ち上がることを忘れて放心していた。
ボスの背中側から勇也さんがレーザーを照射すると、ようやく動かなくなった。
勇也さんに手を引かれ、立ち上がる。
やっと扉を抜けると、「クリアおめでとうございまーす!」とスタッフたちのお祝いが飛んだ。
勇也さんが白い歯を見せてはにかむ。
和やかな雰囲気の中、私たちはハイタッチをして喜び合った。
【加藤 勇也ルート:完】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。