控え室の時と同じで、弘貴さんはクールで口数が少ない。
どう話しかけるべきか、話自体あまりふってほしくないのか。
私は戸惑い、緊張していた。
しかしながら、彼が選んだのは『プラネタリウムデート』――映画と同じで、あまり会話をせずに済むので、プラネタリウムに到着するなり、内心ほっとする。
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静かな音楽と共に、耳に心地よい女声のナレーションが、星座についての解説をしている。
体を倒したソファは、眠くなってしまうほどにふかふかだけれど、今は撮影中だということを思い出して、私はナレーションに集中した。
ふと、弘貴さんがなぜ、このデートプランを選んだのか気になってくる。
私が感じたように、モデルとあまり会話をしなくていいようにしたかったのだろうか。
そう考えてしまうと、ちょっとだけモヤモヤする。
そんなこんなで、星座についてのナレーションは続き――今はふたご座の神話になっている。
ポルックスとカストルという双子の兄弟の話で、彼らは大変仲がよかった。
ふたりは数々の戦で戦果をあげ、英雄としてたたえられていた。
しかし、ある戦でカストルは戦死してしまう。
それを嘆き悲しんだポルックスは、父・ゼウスに『カストルと一緒にいたい』のだと懇願する。
ゼウスはそれを聞き入れ、ふたりを空に打ち上げた――それがふたご座になった、というものだった。
私が思わず涙ぐんでいると、隣からすすり泣くような声が聞こえてきた。
まさかと思い、弘貴さんを見る。
彼は私よりも感極まったようで、目尻から涙をこぼしていた。
しかも、プラネタリウムに入って初めて交わした会話がこれだ。
素っ気ない人なのかと思っていたので、その衝撃的なギャップに、私はちょっとだけ笑ってしまった。
彼は優しい心を持っている人なのだと実感する。
きっと、あまりよく知らない人を相手に、戸惑っていただけなのだ。
***
その後も胸を打つような話が続き、その度に弘貴さんは涙ぐんでいた。
上映終了後、並んで上映場から出てきた私たちは、施設の中でふと立ち止まる。
私がそう答えれば、彼は恥ずかしそうに頭をかきながら、頷いた。
彼との撮影もこれで終わりだろう、と思った矢先。
弘貴さんは「あ、ちょっと待って」と言い、施設内に併設されたショップに駆けだした。
天体や星座に関するグッズを扱っているお店のようで、私はその近くまで行って、様子を窺った。
するとすぐに、弘貴さんが戻ってくる。
手には、星座がいくつか描かれたカバーの手帳を持っているようだ。
一体なにをするのか見当もつかず、私は首を傾げる。
未だ意図が掴めない。
弘貴さんは手帳を開き、付属のペンを手に取ると、最初のページにかに座の絵と自分のサインを書き出した。
予想を裏切る、かわいいテイストの絵に、私は二回目のギャップ体験をした。
それに胸がきゅんとして、自然と口角が上がるのを感じる。
プレゼントをもらえるなんて、予想もしていない。
私が笑顔でお礼を言うと、弘貴さんは、今日初めてのはにかんだ表情を見せてくれた。
【中原 弘貴ルート:完】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。