第5話

中原 弘貴ルート《プラネタリウム》
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2019/07/03 21:09
あなた

えっと、よろしくお願いします

中原 弘貴
中原 弘貴
……よろしく

控え室の時と同じで、弘貴さんはクールで口数が少ない。


どう話しかけるべきか、話自体あまりふってほしくないのか。


私は戸惑い、緊張していた。


しかしながら、彼が選んだのは『プラネタリウムデート』――映画と同じで、あまり会話をせずに済むので、プラネタリウムに到着するなり、内心ほっとする。



***



静かな音楽と共に、耳に心地よい女声のナレーションが、星座についての解説をしている。


体を倒したソファは、眠くなってしまうほどにふかふかだけれど、今は撮影中だということを思い出して、私はナレーションに集中した。


ふと、弘貴さんがなぜ、このデートプランを選んだのか気になってくる。


私が感じたように、モデルとあまり会話をしなくていいようにしたかったのだろうか。


そう考えてしまうと、ちょっとだけモヤモヤする。
あなた

(もしかすると、女の子が苦手なのかもしれないし……私があれこれ気を揉んでも仕方ないか)


そんなこんなで、星座についてのナレーションは続き――今はふたご座の神話になっている。


ポルックスとカストルという双子の兄弟の話で、彼らは大変仲がよかった。


ふたりは数々の戦で戦果をあげ、英雄としてたたえられていた。


しかし、ある戦でカストルは戦死してしまう。


それを嘆き悲しんだポルックスは、父・ゼウスに『カストルと一緒にいたい』のだと懇願する。


ゼウスはそれを聞き入れ、ふたりを空に打ち上げた――それがふたご座になった、というものだった。
あなた

(悲しいけど、素敵な兄弟愛なんだなぁ)


私が思わず涙ぐんでいると、隣からすすり泣くような声が聞こえてきた。


まさかと思い、弘貴さんを見る。
中原 弘貴
中原 弘貴
いい話だな……
あなた

……そ、そうですね


彼は私よりも感極まったようで、目尻から涙をこぼしていた。


しかも、プラネタリウムに入って初めて交わした会話がこれだ。
あなた

ふふっ

中原 弘貴
中原 弘貴
……なに?
あなた

いえ、すみません。
本当に、じんわりと心が温かくなる話でしたね


素っ気ない人なのかと思っていたので、その衝撃的なギャップに、私はちょっとだけ笑ってしまった。


彼は優しい心を持っている人なのだと実感する。


きっと、あまりよく知らない人を相手に、戸惑っていただけなのだ。



***



その後も胸を打つような話が続き、その度に弘貴さんは涙ぐんでいた。


上映終了後、並んで上映場から出てきた私たちは、施設の中でふと立ち止まる。
中原 弘貴
中原 弘貴
泣いちゃって、ごめん……。
初対面の人の前で泣くなんて、俺もびっくり……
あなた

気にしないでください。
感性豊かなんですね


私がそう答えれば、彼は恥ずかしそうに頭をかきながら、頷いた。
中原 弘貴
中原 弘貴
……楽しかった? 俺は、なにを話したらいいか分からなくて、不快にさせてないかと……
あなた

はい。
綺麗な星も、お話も鑑賞できてよかったです

中原 弘貴
中原 弘貴
そっか。
もう少し、話せるように努力する。
今日は……撮影の協力、ありがとう
あなた

こちらこそ、ありがとうございました


彼との撮影もこれで終わりだろう、と思った矢先。


弘貴さんは「あ、ちょっと待って」と言い、施設内に併設されたショップに駆けだした。
あなた

(どうしたんだろう?)


天体や星座に関するグッズを扱っているお店のようで、私はその近くまで行って、様子を窺った。


するとすぐに、弘貴さんが戻ってくる。


手には、星座がいくつか描かれたカバーの手帳を持っているようだ。


一体なにをするのか見当もつかず、私は首を傾げる。
中原 弘貴
中原 弘貴
俺の好きな話はふたご座だったけど、俺はかに座生まれだから、かに座にするね
あなた

え?


未だ意図が掴めない。


弘貴さんは手帳を開き、付属のペンを手に取ると、最初のページにかに座の絵と自分のサインを書き出した。
あなた

(か、かわいい……!)


予想を裏切る、かわいいテイストの絵に、私は二回目のギャップ体験をした。


それに胸がきゅんとして、自然と口角が上がるのを感じる。
中原 弘貴
中原 弘貴
これ、今日の……思い出に、どうぞ
あなた

えっ、いいんですか?

中原 弘貴
中原 弘貴
うん
あなた

ありがとうございます! 大切にしますね


プレゼントをもらえるなんて、予想もしていない。


私が笑顔でお礼を言うと、弘貴さんは、今日初めてのはにかんだ表情を見せてくれた。


【中原 弘貴ルート:完】

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