リーダーの祐理さんとは、期間限定イベント・『リアル型脱出ゲーム』に参加する。
会場に移動する間、彼を見つけたファンの女の子たちから、黄色い声が上がった。
私が素人モデルだということは、誰も知らないようなのだけれど、それでも体中に突き刺さる視線が痛い。
年長者でリーダーということもあってか、落ち着いた雰囲気の彼は、そう優しく声をかけてくれた。
おかげで、体から力が抜け、強張った表情も少し和らぐ。
謎解きに自信があるわけではないけれど、彼と一緒ならうまく乗り切れる。
そんな気持ちにさせてくれた。
***
事前に参加が申し込まれていたらしく、会場に到着したら、すぐに案内された。
私たちは他の一般客に混ざり、五~六人のグループに分かれていく。
そして、カメラマンも含めて六人で密室に閉じ込められた。
この部屋の中で謎を解き、鍵を見つけて脱出すればクリアとなる。
扉が開かないことを確認していると、祐理さんがそう言った。
わくわくした横顔を見る限り、本当に楽しみにしていたらしい。
他の客がそう言って、テーブルに集まっている。
私たちもそこを覗き込むと、動物のイラストに、それぞれ数字が割り当てられたカードが置かれていた。
カードの下部には『Key.□□□□』と書かれている。
祐理さんは部屋の中をぐるりと見渡し、あちこち扉や引き出しを開けている。
私もできるだけ手伝おうと、カードとにらめっこをした。
動物と数字は、それぞれ『ゾウ 2』『ウサギ 5』『イヌ 2』『ニワトリ 7』となっている。
みんなが頭を悩ませる中、私がそう発言すると、祐理さんが「あった!」と叫んだ。
そのまま、手に直方体の箱らしきものを持って、テーブルへとやってくる。
見せてもらった箱にはデジタルロックがかかっていて、四つのボタンと液晶画面がついている。
試しに数回ボタンを押してみると、アルファベットが順に表示された。
私が何気なく提案したことに祐理さんは手を叩き、さっそく白紙に英単語を書き始めた。
祐理さんが書き出した文字を見て、男性のひとりがそう閃く。
私が箱に“lion”を入力してみると、ピピッという電子音がして、解錠された。
正解だったようだ。
その後も、祐理さんは他の客を引っ張っていく形で推理を続け、私もそれを精一杯手伝った。
いよいよ終盤かという頃。
謎解きの答えが指示だったので、全員で天井を見上げた。
すると、天井の隅にメッセージカードが貼られているのが目に入る。
テーブルと椅子を組み合わせて、ようやく手が届くかもしれない高さだ。
祐理さんがそう言って動き出したかと思いきや――。
彼は壁を両足で交互に蹴って、軽々と上にのぼり、メッセージカードを掴むと着地した。
あまりにも鮮やかなその技に、見ていた全員が思わず息を呑む。
そういえば、彼はアクロバットな動きが得意だったのだ。
みんなで拍手しながら賞賛すると、祐理さんは照れくさそうに笑った。
***
数分後。
私たちは見事脱出し、初対面同士、ハイタッチをして喜び合った。
解散後、祐理さんが話しかけてくる。
今、あのゼロプラのリーダーと話ができているというのに、私は達成感の方で胸がいっぱいだった。
彼の手に握られているのは、私物と思われるスマートフォン。
雑誌の撮影とは別に、プライベートの写真を撮りたいということだ。
一気に現実に引き戻されて、私は畏れ多くも頷いた。
イケメンと顔を寄せてのツーショットなんて、もう二度と体験できないかもしれない。
シャッター音が聞こえると、私のぎこちない笑みが撮れたようだ。
祐理さんが笑い、私の頭を撫でる。
労いと優しさを感じる、温かい手のひらに、嬉しさで胸の奥がきゅっとなった。
【髙橋 祐理ルート:完】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。